【お題全部盛り】人狼vsエルフの村【春】【旅】【うさぎ】

kanegon

人狼vsエルフの村


事件に巻き込まれた七人の不幸な登場人物



1・男エルフ:イケメン。地水火風の精霊魔法が得意。

2・女エルフ:美人。古代語魔法が得意。

3・ドワーフ:木造家屋を造る大工。その家は木の城と呼ばれる。

4・アルミラージ:エルフの村のキャバクラで働く姉ちゃん。セクシーバニーガール。

5・人間の占い婆:民法ラジオ番組で11時54分から午後占いコーナーを持っている。

6・人間の狩人:弓矢が得意。

7・ウルフマン:正義超人。横綱。



○○○○○○○



男エルフ:「俺たちの中に一人、人狼がいる。昨晩、本屋の店主が殺されたけど、犯人はその人狼なんだ。間違い無い」


アルミラージ:「人狼ですって。あたし、怖いわ」


女エルフ:「でも、本屋の店主は不眠症だとかで、深夜に散歩する習慣があったそうです。不用心だったのが悪いんじゃないですか」


ドワーフ:「不用心だったのは事実だが、だからといって惨殺されていいってことは無いじゃろう。遺体はぐちゃぐちゃだった」


ウルフマン:「だけどちょっと待てよ。人狼が犯人ならば、現場にオオカミ特有の生臭いニオイが残っているはずじゃないか」


人間の狩人:「昨晩から風が強いだろう。それでニオイが吹き消されたんだ。季節的に春一番だな」


男エルフ:「風の精霊シルフが騒いでいるな」


アルミラージ:「それで結局、誰が犯人の人狼なのよ」


男エルフ:「そのことなんだが、みんな聞いてくれ。本屋の店主が殺された現場に、ダイイングメッセージが残されていたんだ」


人間の占い婆:「なんじゃと。どうしてそれを早く言わないのじゃ」


男エルフ:「慌てないで落ち着いて聞いてくれ。現場に落ちていたのは、ウサギのぬいぐるみだ。これがダイイングメッセージだとすると、犯人はウサギだということになる」


アルミラージ:「ちょ、ちょっと待ってよ。みんな、あたしを見ないでよ。今の話、おかしいでしょ。私に殺されることが分かっていて、あらかじめウサギのぬぐるみを準備していたってことになるじゃない。因果関係が逆でしょ。それって、あたしに疑いの目が向くように、犯人が工作としてわざと落としたのよ」


人間の狩人:「じゃあ、あんたは誰が人狼だと思うんだよ」


アルミラージ:「人間の占い婆が怪しいわね」


人間の占い婆:「なんじゃと」


アルミラージ:「だって占い婆って、その人物の正体を見破ることができるんでしょう。なのに、誰が人狼で誰が無実だと、何も言わないのよ」


人間の占い婆:「ワシが占いの力で人狼の正体を見破れると人狼に知られてしまったら、ワシが真っ先に人狼に狙われてしまうではないか」


ドワーフ:「じゃあお前さんが毎日やっている民法ラジオの占いコーナーはなんなんだって話じゃろう。お前さんは自ら占い婆と名乗っているじゃろう。だったらさっさと占えば良いのじゃ」


人間の占い婆:「じゃから、夜になってもワシを人狼から守ってくれるという安全保障があれば、占いの結果を公表しても良いぞ」


人間の狩人:「いや、それは公表するわけには行かないな。人間の占い婆を守る、と言ってしまったら、他の人間が守られていないことが人狼に知られてしまう。だから、俺が今夜誰を守るかは、ここでは言えない」


女エルフ:「そんな。みんな、お互い疑心暗鬼になっていても駄目だと思います。危機的状況だからこそ、みんなで力を合わせて乗り切る必要があるんじゃないですか」


人間の狩人:「俺たちがお互い疑心暗鬼の状況になることこそが、人狼の狙い通りだ。俺たちは今、既に人狼の罠の中にハマってしまっているんだよ」


アルミラージ:「そんな。あたし、怖いわ」


人間の占い婆:「ふん。キャバクラ嬢アルミラージは演技が上手じゃのう。お主こそが人狼じゃろう。ワシのことを人狼扱いしおって」


アルミラージ:「なんですって」


ウルフマン:「二人とも落ち着けよ。根拠も無しに相手のことを人狼と言って罵っても、そんなの水掛け論にしかならないだろう」


人間の占い婆:「キャバクラ嬢アルミラージの言うことには根拠は無いが、ワシは占い婆じゃ。占いという根拠があるのじゃ」


男エルフ:「そうだな。確かに占い婆には根拠があるが、アルミラージには根拠が無い。自分の正体を見破る力を持っている占い婆を真っ先に消そうと仕向けたところも怪しい。俺も、アルミラージこそが人狼だと思う」


アルミラージ:「ちょっと。何を言っているのよ」


女エルフ:「そうですね。これ以上犠牲者を増やさないためにも、人狼であるアルミラージはみんなで処刑すべきですね」


ウルフマン:「言われてみれば確かに、アルミラージには本屋の店主を殺す動機がある」


アルミラージ:「殺す動機なんてあるはずないでしょ」


ウルフマン:「本屋の店主が死んで、あの厖大な本が誰の物になるか不明だ。まああんな嵩張る物をほしがる人はいないが、アルミラージだけは金を稼ぎたいはずだ。本を自分の物にして、売っ払って金に換えようとする目論見だったんだ」


アルミラージ:「そ、そんな突飛な作り話、誰が信じるっていうのよ」


人間の狩人:「この場合、突飛な話を信じる信じないは関係無いな。男エルフ、女エルフ、人間の占い婆、ウルフマン、この場の七人の内の過半数である四人がアルミラージの処刑に賛成したんだ。多数決でアルミラージの処刑は決定だろう。これが民主主義というものだ」


アルミラージ:「こんな野蛮なことが民主主義なはずないでしょう。民主主義は少数意見を尊重するものであって、多数決だけで間違った道を選ぶのは、それは単なる数の暴力よ」



○○○●○●○



男エルフ:「昨夜、残念ながらまた犠牲者が出た。人間の狩人だった。詳しい描写は避けるが、『きたねぇ花火だな』状態だった」


ドワーフ:「それは穏やかじゃないな」


女エルフ:「怖いですね」


男エルフ:「この状況が何を意味しているのか、考えるんだ。俺たちはアルミラージを処刑したにもかかわらず、人間の狩人が殺された。つまり犯人の人狼はアルミラージではなく、別にいる」


ウルフマン:「アルミラージが人狼ではなかったのか。驚きだ」


男エルフ:「ここで重要なのは、人間の占い婆の占いが外れていたということだ」


人間の占い婆:「なんじゃと。ワシを愚弄するのか」


男エルフ:「愚弄しているのはどっちだ。そもそもあんたが占いで、アルミラージが人狼、って言っていたから、それをみんな信じて支持したんだ。アルミラージを処刑したのに更なる犠牲者が出てしまったんだ。それはつまり、人狼であると勘違いして、無実のアルミラージを殺めてしまったんだ」


人間の占い婆:「待て待て。落ち着くのじゃ。あのときは、アルミラージがワシのことを人狼扱いするから、売り言葉に買い言葉のような感じでああ言ったのじゃ。それに、今後アルミラージが残っていると、またワシが濡れ衣を着せられそうになるから、早めに排除するために、あするしか無かったのじゃ」


男エルフ:「言い訳はもういいよ。今、あんたが言うべきなのは遺言だな」


人間の占い婆:「なんと、ワシを処刑する心積もりか。罰当たりめ。じゃが、お主一人がワシを人狼と言っても、他の者は支持すまい」


女エルフ:「私は、人間の占い婆が人狼かどうかまでは判断できないんですけど。でも一つ確実に言えることがありまして。それは、人間の占い婆の占いは当たらないということです」


人間の占い婆:「おい。営業妨害じゃぞ」


女エルフ:「そして、占いが当たらないからには、人間の占い婆はこの場で役立たずであり、真っ先に排除すべきだと思います。というわけで、私は人間の占い婆の処刑に賛成です」


ドワーフ:「まあ確かに。アルミラージが人狼、と言っていたけど、それはハズレだったわけじゃしな」


ウルフマン:「これで五人中四票。民主主義的多数決により、決定だね」


人間の占い婆:「ふざけるな。人狼はこのドワーフじゃ。ワシではなくこのドワーフを処刑するのじゃ」


女エルフ:「人間の占い婆の占い能力が信用できないことが、今この瞬間にも証明されているんですよ。あなたはこの場の投票で選ばれてしまい、これから処刑されます。もしあなたが自分の運命を正しく占うことができていたら、今日のこの時間に、ここに集まらずに一人でさっさと逃げていれば良かったのです」


人間の占い婆:「お主は占い師ではないから分からぬじゃろうが、占いとは自分のことは対象外なのじゃ」


ウルフマン:「なんというか、ハローワークで職業斡旋をする臨時職員みたいな矛盾した存在なんだな、占い師っていうのは。他人の心配をするより自分のことをちゃんとした方がいいのに」


人間の占い婆:「占いをできるワシが死んでしまえば、もう誰が人狼か見破れなくなってしまう。もうこのエルフの村は終わりじゃ。人狼に滅ぼされてしまう哀れな末路があるのみじゃ」



○○●●●●○



男エルフ:「昨晩、ドワーフの遺体が見つかった。つまり、残りたった三人になってしまったこのエルフの村の中に、人狼が混ざっているということだ」


女エルフ:「人狼のせいで、もう私たちの村はぐちゃぐちゃです」


男エルフ:「今更ながら気づいたが、ウルフマンって何者なんだ。何故この村にいるんだ」


ウルフマン:「俺は横綱だ。巡業で地方をあちらこちら旅して回っている」


女エルフ:「そういえばあなた、筋肉ムキムキですごい体していますね」


男エルフ:「今更ながらなんだけど、ウルフマンって、日本語で言えば狼男だよな。まんまそれが正体を言い表しているんじゃないか」


ウルフマン:「ウルフっていうニックネームなんだよ。目つきが鋭いから」


男エルフ:「村の部外者で、しかも名前が狼男。村で生き残っている候補者は三人のみ。この状況からすると、次の処刑はウルフマンで決まりだな。これでエルフの村の勝利だろう」


ウルフマン:「クソが。おとなしく捕まってたまるか」


女エルフ:「あっ、ウルフマンが」


男エルフ:「逃がさないぞ。炎の精霊イフリートよ、炎でウルフマンを包め」


女エルフ:「私も。ファイアースカーレットストーム」


ウルフマン:「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


男エルフ:「やったぞ。今度こそ、人狼を仕留めたはずだ。俺たちはエルフの村を守り切ったんだ」



○○●●●●●



男エルフ「……」


女エルフ「……」


男エルフ「……よく燃えたな」


女エルフ:「まさかあっという間にエルフの村が全焼するとは。消火のための魔法も間に合いませんでしたね」


男エルフ:「元々この村は全部木造建築で、しかも大量の本のような可燃物も多かったし。しかも春一番で風が強くて延焼が早かった」


女エルフ:「人狼は倒したけど、このありさまで、エルフの村を守り切ったと言い切れるのでしょうか」

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