子守狐は今も
kou
子守狐は今も
人通りも無くなった深夜。
町中をベビーバスケットを抱いている女がいた。
まだ若い20歳前後。
バスケットには赤子が眠っていた。
時折、赤子に何か語りかけている。
女は悲壮感漂う表情で歩く。
やがて、女は産婦人科の前に着く。
バスケットから聞こえる寝息を聞きながら涙を流している。
「ごめんね」
女は赤子に謝ると、その場にバスケットを置き走り去った。胸が張り裂けそうな気持ちだった。涙で顔をぐしゃぐしゃにしている。
暫く走った後、女は目の前に狐が居るのを見た。
町中に動物が居ることに女は驚くが、狐は気にした様子もなく女の脇をすり抜ける。
ホッとしたのも束の間、女は狐が去った方向を見た。
それは、自分が赤子を置いてきた方角だ。
女の顔色が変わる。
走った。
必死の形相で、泣きながら。
途中何度も転びそうになるが構わず進む。
そして、女は見た。
狐がバスケットに顔を入れているのを。
「やめて!」
女は叫んだ。
狐は動かなかった。その声に反応して振り返る。
女は、狐の鋭い目を見て恐怖を感じた。
殺される!
そう思った瞬間、狐は赤子の顔を、あやすように舐めた。
まるで、母親の乳を飲むかのように優しく。
すると赤子は狐に向かって手を伸ばす。
それに応える様に狐は舌を出し、ペロリと赤ん坊の手に触れた。
女はゆっくりと近づき、赤子を抱き上げた。
涙を流しながら女は謝る。
「ありがとう狐さん。私、間違ってた。言い訳できないことをしてしまったけど……。あなたのおかげで、この子を救えたわ」
狐は何も言わずに立ち去る。
【子守狐】
三重県に、子を喰うのではなく子守をしていた狐の伝承がある。
女が赤子を山仕事で置いてきてしまった。狐は、赤子を母親が来るまで子守をしていたのだ。
狐でさえ子供をしっかり育てるのに、貧しさで子を山に捨てる村の風習を女は恥じた。
狐の後ろ姿を見つめながら女は言った。
もう二度と同じ過ちを繰り返しません。
と。
子守狐は今も kou @ms06fz0080
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