作家大先生と春先のえにし
三屋城衣智子
作家大先生と春先のえにし
最近、何だかめっきり春めいて来ましたでしょう。
なんて言いますかね、鶯なんかも鳴いちゃったりして、とても文学的な陽気ですよね。
とてもいい季節でして、外へ出かけたりなんだりも、しやすくなりますでしょうね。
え、この頃めっきり机にすら向かってないだろう?
いやーだってですね、私この一ヶ月で五センチも背が伸びたのですよ。
コレはもうアレですよアレ、机だの椅子だのを新調しないと創作も捗らないってもので。
いえいえ、書いていないだなんてそんな。
勿論? 私の頭の中には無数の文字の銀河が広がっておりましてですね。
机と椅子がちゃんとここに鎮座しさえすれば、すぐにでも広大なる宇宙の塵芥から煌めく星々までを克明にかつ鮮明に映し出すような文章なぞは、原稿用紙の上にはらりひらりと落つるものではありますよ、はい。
え、お前の与太話に付き合う義理なぞ無いですって?
そんな馬鹿な。
私と貴方は五十円を貸してもらい、取り立てに来るくらいにはあるじゃあありませんか。
その、縁? って奴が。
そういえば、五十円というとですよ隣のあれ、軒先に無人販売所なんてできましたでしょう。
何を売っているかと思えば、野菜売ってるってんですよ。
人参、玉ねぎにシャキシャキっとした小松菜。
去年の秋にとれたお米なんかもありまして、大根一本五十円とお安い! え? たかってるだろうお前ってそんな滅相もない。
たかるんじゃござんせんよ、貸していただくんでございます。
きっちりと五十円、耳を揃えてお返しいたしますよ私は。
ええ? 五十円足りない? どうしたんでしょうねぇ。
もしかしたら、一昨日ほどに町の宝石屋に泥棒が入ったそうでございますから、もしかしたら路銀に取って行ったのかもしれませんね。
だから、与太話なんかじゃございませんよ。
私のこの空想力でもって隣の無人販売所でお金に変えて、数えて五十円きっちりと、お返しする気でいますからね。
作家大先生と春先のえにし 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます