俺の釈明
葉月りり
第1話
痔の手術をした。まだ30を過ぎたばかりなのに。座りっぱなしの仕事のせいか、気ままな一人暮らしで夜遅くまでゲームなどしていたのがいけなかったか。
カッコつけと言われるかもしれないが、彼女には言いにくくて、胃にポリープが出来て取るだけだと嘘をついた。心配する彼女に内視鏡だから傷もつかないと、それらしい説明もして安心させた。
手術は難なく終わって拍子抜けしたが、術後のケアのために生理用ナプキンを使用したのが、なんとも勉強になった。
入院前の説明でこれを使うと聞いて、あらかじめネットで買って使い方など熟読した。なるほど、よく出来ている。この薄紙を剥がして貼り付ける。横に出っ張っている羽は折ってパンツの表面の方に回して貼り付ければズレませんってことだ。これを使う時はボクサーじゃ無い方がいい。
さらふわとか、肌にやさしいとか、キャッチコピーは色々あるけどやはり布とは違う。がっつり違和感がある。
女性は毎月これを使うのか。
ということは彼女もこんな思いを毎月してるんだな。大変だな女性って。これからはそういう時はもっと労わってあげよう。
その彼女が今、体を震わせて怒っている。
彼女は俺が無事退院したことをとても喜んで、アパートに駆けつけてくれたのだが、俺は重大なミスをした。トイレに例の生理用ナプキンを置きっぱなしにしてしまったのだ。
彼女はトイレでみつけたそれを揉みしだくように両手で掴んだまま、俺の釈明を待っている。彼女の剣幕に俺は体が固まってしまって身動きができない。声も出ない。頭だけがぐるぐると言い訳を考えている。
妹の…妹はいない。
お袋の…母ちゃんはもう60だ。
君のために…ぶん殴られそうだ。
彼女の目に涙が盛り上がってきて、今にも溢れそうだ。
俺は動きにくい体をギクシャクと動かして正座をして床に手をついた。そして最初の言葉を発するために深く深く息を吸った。
おわり
俺の釈明 葉月りり @tennenkobo
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