わけめアップでGO!(KAC20237)
つとむュー
わけめアップでGO!
朝起きると、寮の後輩が洗面所で歯を磨いている。寝ぼけ眼でなにやら歌を口ずさみながら。
口もごもごだから全然歌詞が分からない。
でも……メロディから推測すると……ワムの名曲『ワクワク・ウェイク・ミー・アップ』のような気もする。というか、よく知ってんな、この曲。
俺も隣りで歯磨きを始めると、後輩が口をゆすいで曲の正体が明らかに。
「♪注目 注目 注目 注目」
やっぱりワムの『ワクワク・ウェイク・ミー・アップ』だ。
ていうか『注目』? そこは『ジルバ』じゃなかったっけ? 俺も自信はないけど。
しかしヒゲを剃りながらサビに移った後輩は、とんでもない歌詞を口にしたのだ。
「♪わけめアップ べふぉれ用午後」
吹いた。
盛大に歯磨きを。
なんだよ、その歌詞。絶対違うだろ。
ジョージマイケルに謝れ!
それにわけめのアップはダメ、絶対やっちゃダメ! 年齢が一番出やすいところなんだから。
「おい、歌うならちゃんと歌えよ。そこは『Wake me up before you Go-Go』だろ?」
「ふぇ? 先輩、いたんですか……」
ダメだ、こいつまだ寝てる。
俺が隣りにいるの、今まで気づいてなかったんか……。
「ちゃんと歌ってますよぉ、『Wake me up before you Go-Go』でしょ?」
「だからそれがすでに『わけめアップ べふぉれ用午後』になってんだよ」
「だって先輩だって困るでしょ? 正確に歌っちゃうとジャス〇ックに見つかって怒られちゃいますよぉ。作品中に歌詞を載せたって」
なんだか面倒くさいこと言い出しちまった。
ていうかこいつ、起きてんだか寝てんだか分かんねぇ。
「大丈夫なんだよ。『Wake me up before you Go-Go』はタイトルでもあるから、文句を言われたら「これはタイトルですよ。てへっ」と言えばいいんだよ」
「ふぇ、そうなんですかぁ。僕はあからさまな字数稼ぎだと思ってましたよぉ……」
いちいち面倒くさいなぁ。
そろそろ目を覚まして普通に戻って欲しい。
「ふわぁ。それにしても、先輩も上手になりましたね」
「何が?」
すると後輩は鏡越しに俺に熱い視線を送る。
そしてはにかみながらこう言ったんだ。
「I, I wake……」
思わず後ろから抱きしめてあげたくなったのは内緒だ。
ゴール!
わけめアップでGO!(KAC20237) つとむュー @tsutomyu
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