第5話 一筋の光と遠雷


 大尉が部屋を出るのと同時に間宮が入れ替わりで入ってきた。

「体調は?体は大丈夫か?」

「心配ない。元々体は丈夫な方だ」

二人きりになったところで一つ質問を投げかけてみる。

「なんでお前はあそこにいたんだ?」

間宮が目を逸らす。

それを俺は見逃さなかった。

「答えてくれ」

「えっと……」

暫く黙った後彼は口を開いた。

「落合大尉殿に…行けと命ぜられたからだ」

「大尉殿に?」

「ああ。理由は聞けなかった。とにかく行けと言われたから行ったらお前がいた」

「そうか」

「何でかは聞いたんだ!でも行けの一点張りで…。俺は何も知らない。すまない…」

「謝らなくていい」

おそらく間宮の話は本当だろう。

彼は嘘を平然とつけるような奴ではない。

「話してくれてありがとう。もういいよ」

「俺もできるだけ調べてみるから」

「いいさそんな……」

思わず出そうになった涙をぐっと堪えた。

爽やかな風が俺の髪を撫でた。



数日して俺の体は完全に回復した。

動いてよしと医者の許可が出たので病院の庭で

軽い体操をしていた。

その時だった。

「今朝の新聞を読んだかっ?」

間宮が新聞を握りしめて走ってきた。

「読んでない。何かあったのか」

「祠堂大将殿のことが書いてあるぞ!」

俺は新聞に食いついた。

それによれば祠堂大将は割腹自殺をした、ということになっていた。

大臣や官僚の多額の賄賂を気に病んだからだそうだ。

「木城少佐殿だろうな……」

よく賄賂の証拠の偽造なんかできるな…。

「偽造はそこまで大変ではないと思うよ」

「わぁっ!大尉殿っ⁉︎」

「いらしたんですかぁっ⁉︎」

肩が触れそうな距離にいつのまにか大尉がいた。

音も気配すらもなかった…!

怖!

あれ……今この人俺の心読まなかったか?

「偽造はそこまで大変ではないと思うよ」

「二回言わなくても結構ですよ……」

流石の間宮も冷や汗をかいている。

「…どういうことですか?」

「祠堂大将殿の賄賂の証拠は多分本物だろうね。彼、最近よく財政界の人間と宴会してたから。大蔵大臣の娘も貰ってたでしょ?」

「ええまあ……」

「そういうことだよ」

「はあ…」

そう…なのか。

軍の上層部についてはよく分からないから

大尉が言っている通りなんだろう。

「へぇ……よく知ってますね」

「まあね。そういえばコハルちゃんについてだけど」

「えっ…はい!」

いきなり言われて驚いた。

もう調べたのかこの人は。

「詳しいことがわかったからおいで」

「ありがとうございます!」

またコハルに一歩近づける…!

「よかったな武藤!」

間宮が飛びついてきた。

嬉しそうに笑っている。

「ああ。ありがとう間宮」

軽いお礼をして間宮とは別れた。

遠くで遠雷が鳴る。


病院の物置のような狭い部屋に招かれた。

北向きの部屋だからか窓があっても薄暗い。

「落合大尉殿!」

「コハルちゃんのことだけど…」

「はい…!」


「自殺してた」



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おもひで COCO NE @cocoto1228

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