君のために嘘をつく

雨宮 苺香

- Episode -

 あの時、直感的に飛び出すことが出来ていたら、あの約束さえ破ることが出来たら、今頃俺は君の隣に居れたかもしれない。なんて淡く情けなく期待こうかいせいしゅんに残していた。






 夜が更け始めたコンビニ。たまたま会えた君は軽く髪を束ねていて、コンビニ袋には飲み物とアイスとお菓子が入っていた。

 彼女のことを思い始めてからもう1年くらい経つ。そろそろこの想いを口に出したいと考えるさなか、頭によぎるのは〝好きな人が出来たら教える〟という親友との約束だった。まあ、俺が勝手にそう言っただけなんだけどさ。


 会計が終わった彼女は僕に微笑みかけてくれて君から声をかけてくれた。



「こんな時間に何してるの?」


「飯作るのめんどくさくて買いに来た」



 口ではそう言葉を紡ぐけど、頭の中ではもっとちゃんとした服着てくればよかったなとか、もっと話してたいからこのまま一緒にコンビニ出ようかなとか。



「そっか。ちゃんと食べなきゃだめだよ。

 それじゃまたね」


「まって」



 とっさに彼女の腕を掴んだくせに意気地なしな俺は「ごめん」と言葉を入れる。



「別に大したことじゃないんだけどさ、今度話をきいてほしいっつーか、なんだろ。いまはまだ言えないんだけど、言いたいことがあって」



 親友に言ったらこの気持ちちゃんと伝えるから。

 その時まで待っててって――。





 この時の俺はちゃんとが来ると思ってた。

 そして、根拠もないのに勝手に頭の中でハッピーエンドを望んでいたんだ。


 だから、次の日、親友から「告白して付き合った」って報告を受けた時にはもう、何も考えられなかった。

 ずるいよな。でも似たもの同士か。

 さすが親友とでもいうべきかな、同じ人を好きになるなんて。



「おう。おめでとう」



 でも親友はいいやつだし、好きなあの子もきっと幸せになれるよな。

 自分の心を押し殺して言葉を作って、言えなかった想いの投げる場所を探す俺は、失恋のモノクロ世界に戸惑う。


 あの時言えなかったんじゃなくて、親友の幸福のために言わんかったんだと自分に言い聞かせて、本心こいごころにいいわけして、親友の隣で笑みを作る彼女を見ていた。

 君が幸せならそれでいいよ。

 ……この気持ちがなくなるまで嘘つきでいなきゃな。



 -END-

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君のために嘘をつく 雨宮 苺香 @ichika__ama

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