第3話 二人の秘密

ある日学校から帰ってくると珍しく兄が先に帰っていた。

「おっ、水凪お帰り。」

水凪「ただいま、煌輝こうき兄さん。」

休南やすな 煌輝こうき

それが兄の名前だ。


水凪「珍しいね。僕より早いなんて。」

煌輝「今日は部活の練習なかったからな。ご飯食べようぜ、腹減った。」

水凪「別に待ってなくても良いのに。」


僕達兄弟の仲は普通だ、物凄く仲が良いとは言えないが、別に互いを嫌っているわけではないのだ。


今日は両親は仕事があるので久しぶりに二人だけの夕食だ。

煌輝「水凪のカツ丼久しぶりだな〜」

水凪「ちょっと味落ちてるかもしれないよ。」

この世界で前世を思い出したのはカツ丼を口にしたときだった。

家族には余りの美味しさに涙が流れたと誤魔化した。

いや、それは少しあったかもしれないが、頭の中をとんでもない情報が駆け巡ったのだ、胸から込み上げてくる物があった。

こうしてカツ丼を作るようになったのは、何時の日か木星にまた会えるのではと思ってしまうからだ…

自分がこうして生きているように。

手作りのカツ丼を食べさせてあげたいのだ。

水凪「はい、大盛りお待ちどうさま。」

煌輝「キタキタ!いただきます!!」


煌輝「そういえば、水凪は進路どうするんだ?」

夕食の後に煌輝が聞いてきた。

水凪「兄さんと同じ学校。技術開発コースだけどね。」

煌輝「やっぱり、士官コースは受けないのか。」

水凪「僕にはそんな勇気ないよ。世のため人のために自分を犠牲に出来る美しい正義間は無いんだ…」

煌輝「そっか…」

気の所為か煌輝は嬉しそうにみえる。

水凪「どうしたの?」

煌輝「いや、何でもない。お前がそうしたいならそれが一番だ。頑張れよ!」

水凪「うん、兄さんもね。」

煌輝「ああ!俺が最強の隊員になって皆を守るぜ!勿論お前もな、水凪。」

水凪「フフ…期待して待ってるよ。」

水凪はそう言って自分の部屋に戻っていく。

煌輝「俺が、兄ちゃんが絶対守ってやるからな…お前だけは絶対に戦いに巻き込まねぇ…お前が例えどんな強大な力を持っていたとしてもだ…」 



それは今からおよそ8年前の事だった。

煌輝、水凪、小衿

この三人はいつも一緒にいた幼馴染だった。

少しヤンチャな煌輝、臆病な水凪、優しい小衿の3人の関係はとても良好だった。

ある日、その事件は起こった。

自分を含めた三人を突然複数の大人が拉致してきたのだ。

それは小衿の身代金目的の犯行だった。

小衿は有名な寒林財閥の一人娘である。

身代金は桁外れの額になるだろう。


煌輝「おい!小衿に何するんだよ!」

煌輝が犯人の一人に突撃して小衿を助けようとするが相手は大人敵うはずもなく。

「うるさいガキだな、変なのがオマケでついてきやがったぜ…ボスどうします。」

「娘が手に入ればどうとでもなる。勝手にしろ。何なら殺すのもありかもな。」

水凪「あ…ああ、兄さん。」

水凪は動けなかった、彼は銃を突き付けられあのころの事を思い出し足が竦んでしまうのだ。

一人が水凪の事を掴み上げてもう一人が銃口を突きつけて煌輝に言う。

「小僧、選ばせてやるよ。あの娘を渡してやる代わりにこいつを殺す。娘を置き去りにしてこいつを助ける。どっちが良い?」

突然そんなことを言われ煌輝は戸惑う。

「選べよ速く。」

水凪「兄さん…僕は良いよ別に…」

煌輝「水凪…?」

水凪「僕、二人が無事なら満足だよ。犯人さん僕を殺して下さい…二人を、助けて下さい。」

暗い笑顔で水凪は言う。

「だそうだ、弟君の勇気に免じて見逃してやるよお兄ちゃん?」

煌輝「や、やめろォぉぉ!!」

煌輝は勢いよく銃を持つ男の腕に噛み付く。

「この野郎!!」

男は煌輝を殴り飛ばしそのまま何度も蹴りを入れる。

水凪「や、やめて!やめてくれよ!」ポロポロ

涙を流しながら懇願する。

しかし、男はやめなかった。

水凪「やめてよ…やめて……やめろ…!」

やがて水凪の様子がおかしくなっていく。

水凪「ヤメロ!!!!!」

ゴジュリっと水凪を掴んでいた男の腕からおかしな音がする。

「ん、なん…だ…」

腕がなかった。

地面に降りた水凪が体を捻ってひきちぎったのだ。

男が痛みで叫ぶより速く水凪は男の頭をひきちぎった。

首のない死体が横たわる。

小衿「み、水凪…君?」

「な、何だこいつは!?」

水凪「う…ううう…ウガァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

雄叫びを上げて他の犯人にも襲いかかる。

犯人達は悲鳴を上げながら蹂躙されていく。

頭を踏み潰され、目を抉られ、骨を折られ、腹を噛みちぎられて。

まるで獰猛な野生動物だった。

そして、煌輝は見た。

水凪の顔に見たことがない黒い痣が浮かんでいた。

瞳孔は静脈血の様に赤黒く染まっている。

煌輝「み、水凪…なのか?」

犯人達を皆殺しにした水凪はフッー!フッー!と荒く呼吸をしながら煌輝を睨みつける。

徐々に煌輝に近づいてくる。

煌輝「ま、待て!水凪!俺だ!兄ちゃんだ!」

水凪?「うっ…あうぅぅ…コウ…キ?」

煌輝「そ、そうだ!落ち着け!もう大丈夫だから!」

その言葉を聞くと水凪はこと切れたように倒れた。


小衿「隠さないと…この事を隠さないと!」

小衿がそんなことを言った。

煌輝「か、隠す?何のために?」

小衿「貴方は感じなかったの!!?今のは普通の人間の力じゃない!このままじゃ水凪がどんな目に合うかわからないわ!」

煌輝「水凪…」

小衿「とにかく、なんとかここから離れてまずは水凪君の血を洗い流さないと!それと口裏合わせも!警察が来る前に、速く!!!!」

煌輝「わかった。お前は人気のない川かなんかを探せ!俺が水凪を運ぶ!」


その後、自分達を発見した警察には全て覚えていないで通した。

二人は理解していた。

水凪が見せたあの力は多分、世間に知られてはいけない力だ。

隠さなければ、見つかれば研究施設に送られ死ぬまで実験体もあり得るのだ。

危険から水凪を遠ざけなければ。

二人はそんな事を考えるようになった。

幸い、水凪は臆病な性格故、防撃隊を志す事はなかった。

しかし、完璧に安全ではないのだ。

自分達が力を付けて守らなければ。

大切な家族であり、幼馴染を。


煌輝「水凪、お前は俺の大切な弟だ。お前はあの時兄ちゃんの為に怒ってくれたんだよな。兄ちゃんを守りたかったんだよな。だから、俺も守るよ。」

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転生少年兵は静かに生きたい 湯豆腐 @renrenperikan

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