第38話 先輩、どこに行くのよ?
玉津先輩に私は胸を張って言いました!胸を張って言いましたとも!
先輩は、いつでも怖がって、怖がって、怖がっていますけど、いつでも、私の後ろから付いて来たじゃないですか!私の背中が最強の安全地帯なんでしょう?だったら、私が行くって言ったら行きますよね!ねえ!ねえ!
玉津先輩は、怖がりで、だけど霊感があって、神社に奉納される様々なものから刺激を受けて、ホラーマスクをかぶって現実逃避をしているけど、やるときゃやるんだって知っていますよ!玉津先輩が関わればとりあえず死人は出ない!それが信条の先輩じゃないですか!
「よし!待っていてすぐに助けてあげるから!」
気合いを入れた私が、馬鹿みたいに叫びながら走り出すと、なんということでしょう、先輩が後ろから付いてきません。
「先輩!嘘でしょう!どっちに行くのよ!」
私が池に向かって走っている間も、先輩は全く別の方向に向かって全力ダッシュをしています。その方角は森の方で、その森の奥の方には、髪の毛が長くて白いワンピース姿のあの人が、這いつくばりながら出て来そうな井戸がある!
「先輩!貞子に用があるんだったら後にしてください!」
返事もしない先輩は、井戸に向かって一直線!どっちに行くのよ?もう!先輩のことなんか知らないだから!
猛スピードで走った私は、池の中に飛び込みました。
「もう!無理!体を引っ張られて完全に沈みそう!私なんて死んだ方がいいんだよ!みんな!離して!」
絢女さんが、そんなことを言っています。
なにしろ顔が出ているだけの状態で、両脇に自分の腕をかけて引き上げようとしている赤峰先輩が、同じくらい沈んでいます。
「諦めるなよ!諦めるな!こういう霊現象が起きた時には、絶対に死んでもいいなんて思うなよ!生命力を溢れさせろ!」
「そうだよ!すごい映像が撮れているかもしれないんだから、後で上映会をやらなくちゃなんだからね!」
「そうだ!そうだ!これは凄い映像になるぞ!絶対にバズること間違いなしだよ!」
「うわわあ!やばい!足が引きずられる!」
「やばい!やばい!やばい!これは上がった方がいいぞ!」
「絢女さーーん!!」
私は彼女の肩を掴んで引きずりましたとも、渾身の力で引きずりましたとも。
「ふんぬーー〜!」
最初は、強烈な抵抗があったんですけど、それもあっという間になくなって、五人で絢女さんの体を引き摺りながら、岸辺の方へと引っ張ります。
赤嶺先輩たちが手伝ってくれたおかげで、絢女さんの体が池から抜け出して来ました。
「ふんぐーー〜!」
私が力を入れると、絢女さんの体がググーッと動くみたい!渾身の力を込めて陸に引きずり上げると、
『ぎゃあああああああああうっ』
蛇の頭(女性)が叫びながら、怒ってこっちの方に泳いで来ています!
「蛇って水の外にも出られるよな!」
「俺たちやばくない?」
「絢女!ほら!しがみついて!へたっている場合じゃないって!」
赤峰先輩は、絢女さんを担ぎ上げながら逃げようとしています。
それに比べて、
「先輩!玉津先輩!」
井戸の方に向かって叫び声を上げると、先輩の足先が井戸の中へと消えていく姿が見えました。
「ええ?井戸に落ちたの?」
本当の本当に、びっくりですわ。使えないにも程があるって!
◇◇◇
僕は正直に言って、死にたくないんだよ。
僕が関わると死人が出ないと言われるのも、土壇場の判断で死なない手段を選ぶから。
あるよね〜、あるよ、あるよ、あるよ。
ホラー映画を見ていたはずなのに、ラストになったら、ダークサイドに落ちたあいつが出て来ましたみたいな展開。え?いつの間にか傍観者がジェダイになっちゃったの?みたいな展開。
正直に言って、僕はこの展開に違和感を感じる。なんでその展開なの?って感じで冷める。そう、映画だったら冷める展開なんだけど、実際問題、天野さつきが言うところの『ラスボス』が現れると、いっつもこんな展開だよ!
僕らは、丸腰だった。何も武器を持ってねえっての。
それから、うーん、完全に形態が宇賀神ですよね?人頭蛇身の宇賀神、本来なら人間に福徳をもたらすという福の神様だよね?
だけど、髪の毛おかっぱの女性が頭になっているんだけど、これ、おかっぱというよりかは、髪の毛をザンバラに切られたような感じ。
そうだよ、そうだよ、そうだよ。
この人が大元の人だわ。
二百年くらい前に、自分は兄に嫁ぐものだと思っていたこの女性は、親から兄ではない人と結婚するように言われることになる。
近親婚が繰り返されていた熊埜御堂家だけど、さすがに同腹での婚姻は推奨していなかったんだよね。異母ならありだけど、同腹ならなし。そこの所を十分に理解していなかったこの人は、兄を慕って、慕って、慕った挙句に、兄の嫁を殺して子供を連れ去ってしまった。
そうして、天を呪い、地を呪い、危ない何かに手を出して、挙句にあんな、最終形態になってしまったんだな。つまりはどういうことかというと、あの人頭蛇身は、社長やオーナーの大叔母さんにあたる郁美さんではない!
だって郁美さんは井戸にいるから。
井戸の中を覗き込むような形で、おばあちゃんの幽霊が立っているから。
僕はとにかく走った、生き残るために走った。
郁美さんの幽霊を霧散させながら森の中の井戸に飛びつき、塞いでいた板を無我夢中で外していくと、土に埋もれた井戸の中が見えたわけだ。
この井戸は使われなくなってずいぶん経つし、土で埋められているようだけれど、竹の管が土の上から突き出ている。井戸には水の神様が宿っていると言われているので、井戸を塞ぐ際には細心の注意が必要だったりするわけだよ。
埋める前にはお祓いをするし、埋めていく最中にはパイプ(竹の管でも良い)を通して、中に溜まったガスが外に出るようにしなくちゃなんだよね。これを息抜きというんだけど、この井戸の竹の管は、半分腐りながらも、その役割を果たしているように僕には見えた。
すでに埋められた井戸の中には、枯れ葉がうず高く積もっていたわけだけど、その中に、何か、重要な物が落ちていることを僕は知っている。
それは、遥か昔に作られた非常に珍しい物であり、それがなければ、僕らは到底生き残ることは出来ないだろう。
きっと、ここから無事に帰ったとしても、交通事故に遭ったり、交通事故に遭ったり、何かの事故に遭ったりして死んでしまうに違いない。それだけの呪詛を撒き散らす、あの最終ボスを倒すためには、同じだけの呪いが必要になるわけだけど・・・
「手が届くか?」
井戸の淵から体を乗り出してその『何か』を取ろうとした僕は、そのまま井戸の中に落ちてしまったのだった。
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