第9話  演劇サークル

 聖上大学の演劇サークルといえば歴史も古く、歴代の先輩たちの中には、現在も役者としてテレビや舞台で活躍しているような人が結構な数に登るという。


 聖上大学では秋に大学祭を行うことになるのだが、学祭で行われる舞台はチケット制となっているし、毎年、多くの演劇関係者が訪れる。


 聖上大学祭といえば、テレビでも取り上げられることも多い『ハロウィン・パレード』を思い浮かべる人も多いかもしれないけれど、大学祭で行われる演劇サークルの舞台は、注目度が高い演目だったりするのだ。


 今年の演目が『オペラ座の怪人』に決まったのは、大学のOBが主催する劇団の一つが潰れたことがきっかけにもなる。処分に困った衣装や小道具を、大学側が安く購入することになったのだが、その購入した品々を拝見していくに従って、

「これは『オペラ座の怪人』をやるしかない!」

 と、部員たちの意見が一致することになったのだった。


 何しろ、一個目のダンボールの箱を開けてみたら、一番上に乗っていたのが、怪人が使用する特殊なマスクだったのだ。


 オペラ座の怪人、それは19世紀後半、パリのオペラ座の地下に住み着いた怪人が出て来る物語となるのだが、この怪人はコーラスガールだったクリスティーナに恋心を描き、自分の姿を隠しながらも、クリスティーナに対して音楽レッスンを行っていく。


 下剋上したクリスティーナがオペラのプリマドンナに抜擢されたり、それに嫉妬したカルロッタがプリマドンナの座を奪い取ると、怪人によって声が出なくなったり。


 そうこうするうちに、ラウル侯爵というイケメンで金持ちのパトロンがクリスティーナに惚れて、なんやかんやあって、最終的には怪人ではなく侯爵を選んだクリスティーナのハッピーエンド?みたいな感じで終わる物語。


 一通りのセリフ合わせ、各場面の役者による稽古も終わったところで、後は合宿で通し稽古を進めていく予定だったのだけれど、毎年予約をしていた合宿所が経営破綻で潰れて使えなくなっていたのが判明。


 今まで使ってきた合宿所は、冬場になると、すぐ目の前にあるゲレンデを訪れる多くの客が宿泊する施設となり、夏場になると、廃校となった小学校の体育館が使えることから重宝されていたのだが、温暖化によってゲレンデに雪が降り積もらず、通常よりも営業期間がかなり短い状態となり、冬場の宿泊客が激減。その影響により、夏を待たずして廃業。


 温暖化が問題になっているというのは良くテレビでも取り上げられているけれど、こんな所に皺寄せが来るのかと、驚き慌てながら、部員総出で代わりの合宿先を探していたところ、侯爵役の赤峰玲央が声をかけてきたのだった。


「ホテルになるんだけど、劇場付きのところがあるんだよね!学校の夏休みに入る前で金額も安めに設定してくれているし、劇場の方も、宿泊予定日には講演予定とかもないらしくてさ。一日借りるのに追加で3万払わなくちゃならないんだけど、どう?俺としては全然アリだと思うんだけど?」


 部長となる狩野悠人は、早速教えてもらったホテルのホームページを確認したところ、ホテルの建物自体は古いのだが、四十人収容の劇場はしっかりした物のように見えた。


全国各地を巡る旅役者の一座が大衆演劇を行ったり、ある時にはマジックショーを行ったり。人形浄瑠璃の舞台を行ったり、スーパー銭湯やキャバレーなんかで営業をしている演歌歌手や高齢者向けのアイドルグループ(主に演歌や歌謡曲を歌うらしい)も公演を行っているらしい。


 温泉にも入れるノスタルジックな外観のホテルは、客を集めるために、劇場での公演を呼び水としているようだった。


 もちろん、この劇場は公演以外の日であれば有料で貸し出しOKとなっている。

「ちょっとお値段お高めになるけど、物価高もあるから、しょうがないと言えばしょうがないよな。よし!ここを次の合宿場所に決めよう!」 

 部長の狩野は即座に決めて、ホテルに予約の電話を入れたのだった。


 こちらが大学生だからなのか、

「夜中に大勢で館内を歩き回るようなことはご遠慮ください」

 だとか、

「宿泊予定の部屋以外の撮影はお断りしています」

 だとか、

「他のお客様の迷惑にもなりますので、叫んだり、悲鳴をあげたり、部屋から飛び出して来るなんてことのないようにお願い致します。あまりに迷惑行為が酷い場合には、宿泊を途中で取りやめて頂くことにもなりますので、どうぞ宜しくお願い致します」

 なんてことを言われてしまったのだ。


「大学の合宿だから、そりゃ、みんなで集まって飲んだり、騒いだりとかはするとは思うんだけど、それについては、常識の範囲内であれば問題ないってホテルの人も言ってくれたんだよ。だけどさ、叫んだり、悲鳴をあげたりって、そんな酷い騒ぎなるようなことってあるか?」


 部長の狩野が首を傾げながらそう言うと、近くに居た赤峰玲央が、

「俺、心霊動画が撮れたら、即座にインスタにアップしよ〜」

 なんてことを言い出した。


「俺、チェキ持って行くわ。心霊写真が撮れるかもしれないしな!」

「スピリットボックス、買っちゃう?マジで幽霊と話せたらたぎるよな〜」


 どういうことなのか、全く理解が出来ない話の内容で、

「赤峰、あのさ、心霊写真ってどういうことなの?」

 と、部長の狩野が問いかけると、

「いやさ、今回合宿する予定のホテル、心霊現象がほぼ百パー出るっていう曰く付きのホテルで、オカルト好きの間では有名なスポットなんだよね」

 と、赤峰玲央は言い出した。


「今、一番、フォロワー数を稼げるのって結局のところ心霊系なんだよな!俺、今回の合宿で、マジでバズり動画ゲットしてくるわ〜!」

 と、意気込む部員は赤峰だけではないようだ。

「嘘でしょう!心霊スポットなんて私!聞いてないんだけど〜!」

 女子部員がその後、大騒ぎしたのは言うまでもない。

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