『いいわけではありません、事実です』
aaa168(スリーエー)
それは、紛れもない事実
「いいわけではありません、事実です」
「いやいや向かい風ってだけで遅刻するか?」
成績優秀、きっちりした敬語、眼鏡に黒髪ロング。
実に真面目そうなこのクラスメイトは、見た目とは裏腹によくやらかす。
遅刻。
宿題忘れ。
授業中よく眠るし。
俺はこういう、
赤の他人だろうが……隣席でこうも“やられる”と鼻につく。
「事実です」
「二回言っても無駄だぞ」
「今日も授業中指されて、自信満々に間違えてたよな」
「間違いは誰にでもある事です」
「……なんでソレで俺より成績良いんだよ」
「頭良いからですかね」
「腹立つんだけど」
「ふっ」
「笑うな」
ああ言えばこう言う――まさにこの通り。
無視しろなんて、自分でも分かっているけれど。
止められないのだ。
理由は自分でも説明出来ない。
☆
☆
「お前今日も宿題忘れてたな」
「やりましたが、家に忘れただけです」
「この前忘れたのは?」
「妹が間違えて持って行ってしまいました」
「……この前の前は?」
「ペットが食べました」
そんなわけあるか。
そう大声で言ってやりたいが我慢する。
「……」
「満足ですか?」
「お前ほんと……いつも思うが噓のいいわけすんな、事実を言え事実を」
「事実です」
「おっ言ったな。今度家行っていいか? ヤギが居たら納得してやる」
「……」
「黙るな」
「……ペットは農家のおじさんが引き取って居ません」
「テメーちょっと考えただろ」
「……動物の事を一番に考えています」
「嘘つけ」
「事実です」
さっきはちょっとだけ、鉄壁? の
そんなので嬉しくなる自分が嫌だ。
「……でも、家には来ても良いです」
「え」
「今日来てください」
「えっ」
「来れないんですか?」
「いや、でもいきなりだし流石に」
「ヤギ、帰ってきているかもしれませんよ」
「ええ……」
そんなわけあるか!!!
とは、言えなかった。
☆
「……」
「……」
今、俺は彼女の私室に居る。
大量の本が詰まった棚。
整理整頓された机。
落ち着いた、木の香りのする空間。
真面目という言葉が似合うその部屋は、ずっと沈黙が支配していた。
鬼気まずい!
「お
立ち上がった彼女。
そしてコケた。……今なんか、ワザとらしくなかった?
「あの……スリッパが劣化していました」
「別に何も言ってないぞ」
「事実です」
「何も言ってないんだけど……」
「心の中で笑ってそうだったので」
「いや俺の事どんな目で見てんだよ……」
思えば――いつも彼女の“いいわけ”からだ。
こうして、会話が始まるのは。
「お茶、淹れてきます」
――こうして、彼女が笑うのは。
「な、なぁ!」
頭の中。
ふと、過ったその考えを。
整理する間もなく――叫びで吐き出す。
「別に、俺は……」
「はい?」
危なかった。
立ち上がった彼女に、喉元から出かかった言葉をふさぐ。
「……なんでもない」
「そういう時、大体なんでもあるんですよ」
「いや――その、違うんだ」
思考がまとまらないまま。
彼女が、歩いて眼前まで近付いて。
「“いいわけ”ですか?」
「うっ」
まさか、彼女にそう言われるなんて。
そしてそうなれば、流石に答えるしかないわけで。
「別にその、普通に話してくれて良いから……」
「!」
「今更だけど。お前と居るの、楽しいからさ」
恥ずかしい。
汗が、背中に流れていくのを感じる。
深く
「……お茶淹れてきます」
「お願いします……」
気付けば背を向いていた彼女。
その表情は、一体どんなものだろうか。
「正直……貴方が楽しいなんて信じれません。実は嘘では――」
「――嘘じゃない。事実だ」
「っ! そうですか」
分かれないけれど、きっと――――
「私も、です」
何時もの様に、笑っているはずだ。
『いいわけではありません、事実です』 aaa168(スリーエー) @aaa168
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