神様にも定年退職はありますか?

星のねこ

第1話

私は今日、定年を迎えた。


親から譲られた会社だった。

偉大な親は大きな会社を持っていた。事業拡大で子会社をたくさん作り、それを兄弟姉妹で一つずつ受け持った。一番目の長子は、豊かな資金がある会社だった。二番目は熱い人材が揃っている会社だった。

三番目の私は、小さいが未来がありそうな会社だった。しかし、人材は一人もいなかった。

まず私は、人を探すことからはじめた。

どんな人でも、働いてくれればいいと思っていた。前職や経験を加味せず、来る者拒まずで受け入れた。

同時に、会社の地盤も強化していった。私が何か事を起こすたびに、兄弟姉妹は小言を挟んできた。けれど、それでも私は私のやり方で会社を守っていった。


寒さが長く続いた冬に、社員は徐々に減っていった。

そのうち、暖かくなるとなぜか人材の流出が止まった。

多くの社員が辞めた影響で、残った人には苦労をかけてしまった。その人たちのために私にできることは、優秀な人を集めることだった。募集をかけるとすぐに集まり、多様な人材が揃った。欲をいえば深く思考できる者も欲しかったが、それは叶わなかった。

社内の環境も整えて、社員が働きやすいように工夫をした。そのお陰か、社員数は兄弟姉妹の中でも群を抜いていた。私にはそれが誇りだった。

このまま成長して、会社は大きくなっていくものだと思っていた。


それは、急な知らせだった。

日中のオフィスに、大型トラックが突っ込んできたそうだ。勤務中の社員が犠牲になった。オフィスも破壊され、復帰の目処はつかなかった。

働く場所がないと、人は働けない。働かないと食っていけない。

残った社員も全員、依願退職を申し出てきた。重要な役職を与えていた人材も退職してしまったが、仕様がないことだと割り切った。


会社を立て直すのに、長い時間がかかってしまった。

しかし、この危機を乗り越えられたからこそ、今の会社ができている。環境も安定し、社員数は前よりもずっと多くなった。社員の個性に合わせた配置もできている。以前のような危険は、事前に予測できるようになった。

私の後継も見つかり、十分に育った。

そろそろ私も現場からは……と考えていたところ、嘱託を持ちかけられた。今までと違う立場から見てみるのも悪くない、と思った。

どうせならと、現在の立場より最も遠い場所を選んだ。孫請けよりもさらに先の持ち場だ。

私の顔を見ても、誰も気づくことはないだろう。


定年の後、私は半年と少しの間、休息をいただいた。

その間に準備を進めた。住む場所を変え、経験や価値観をリセットし、身体と心を整えた。


復帰後は、多くの仲間たちから激励の言葉をもらい、暖かい気持ちになった。

ここが私の居場所だと、そう言われているようで、思わず涙を流してしまった。

そして、目一杯に、張り裂けんばかりに叫んだ。

第二の人生、これからよろしく。

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