第二章 東屋奏(中・高)
2‐4.
僕の名前は
「好きです。付き合ってください。」
人生初の彼女ができた瞬間だった。染めた茶髪は巻いていて、顔は男子たちの間では上位の人気を誇る美貌。そして、上目遣いが胸を刺される程有無を言わせぬ可愛らしさ。これは、断る理由がない。
「はい。」
―——・・・
「なんで、他の女の子と一緒に帰るの!」
「ごめん、話しかけられたから仕方なく...。」
「いい訳?私の事なんかどうでもいいんだ。ねえ、そうでしょ?」
付き合って三ヶ月。付き合いたてのような甘ったるい雰囲気が一気に消え去り彼女に怒られる日々が続いた。
「分かった。帰りにアイス買ってあげるから機嫌直して?」
「当たり前でしょ?」
「はいはい。」
それでも彼女は可愛かった。自分の財布事情はこんな風にいつもおごりだからぎりぎり。おまけに自分磨きでありとあらゆる洗顔フォームやら、化粧品やら、おまけに、彼女から勧められた金髪ヘアにするための代金も安くない。もちろん中学生だから校則も厳しい。バイトもできないから、毎月毎月、母に強請るがこの頃貰いすぎだと怒られた。兄に比べて真面目でないから余計に相手にされなくなった。自分の周りの友達は小学生のときよりも大きくメンバーが変わった。それは美人の彼女ができたのが大きな要因だ。本ばかり読む優等生根暗な人生とはおさらばだと、この頃は感じていた。それほど楽しかった。
「この後、奏の家行っていい?家に親居ないんでしょ?」
俺らは中学生。未来の自分から見れば、だいぶませていた。ませていたし、だいぶ無知だった。
「お前は誘い上手だな。コンビニ寄ろうか。」
無知ではあったが、軽く考えていたわけではなかった。元は優等生だったから。こんな話をしているときに、スマホが鳴った。昨日ラインを交換したクラスメイトの女子からだった。ここで電話に出たらまたお説教続きだ。彼女に「誰から?」と聞かれても曖昧に答えてスマホの電源を落としてポケットに仕舞いこんだ。
「間違い電話だったみたい。行こ。」
彼女は満面も笑みで腕にすり寄った。
「うん!」
彼女に一度訊いたことがある。当時、まだ陰キャ根暗だった自分を、どうして選んでくれたのかと。彼女曰く、俺は努力をすればイケメンになると感で分かったという。実際、彼女の指示通りに自分磨きを頑張ったのだが見た目の雰囲気はだいぶ変わった。付き合い方は彼女の友達にアドバイスをもらい、順調にできていると思っていた。手をつなぐところから、記念日を忘れないこと、初キス、初体験、すべてやって来た。でも、太陽が空をオレンジ色に染めたとき、彼女が家に帰った後、もう一度スマホを取り出した。最近悩まされているクラスメイトからの過剰なメッセージ。溜息が止まらない。これが彼女に怒られている理由だ。何度もやめてほしいとラインを送っても引き下がってはくれない。仕方がないからブロックしてこれでましになるかと思ったらそうでもなかった。翌日、事件が起こった。
「奏!お前二股してたって本当か?」
「は?何言ってんだよ。そんなことするわけないだろ。」
学校の下駄箱で靴を履き替えているとクラスメイトの男子三人がこちらに集まって口々に言う。
「佐伯さんが彼氏にブロックされたって。それがお前だって言うんだ。」
「でも、そんなはずないだろうとは思ったんだけど二股したって佐伯さんが泣きべそってて。」
「嘘だって言えよな?お前の彼女の一ファンとしてはお前を恨まなきゃいけなくなる。」
確かにブロックはしたが、それがどうして佐伯さんが知ってるんだ?ラインでは表示されないはずなのに。
「二股なんかするはずないだろ。俺が一途なのはお前らが一番知ってるだろ?」
三人はそうだよなという安心した表情を見せたが、彼らの後ろから降りて来るまた女子三人が見えて今度はガチで顔が真っ青になった。直感で感じたのだ。こいつらを弁明することは不可能だと。
「
「説明して。」
鬼の形相していう二人は佐伯さんといつも一緒に遊んでいる友達だった。女子は群れで生活すると聴いたことがあるが、その恐ろしさをここで理解した気がした。真ん中で泣いている佐伯さんのニマッと薄ら笑いが見えたのは俺だけだろうか。もちろん、彼女も鬼の形相をしてこの場に集まった。ついでに彼女の友達5人6人と、沢山の女子も集まってくる。これは本当におまけだが、お祭り事のようにバカ騒ぎがしたい男どもも集まってくる。噂とは怖いものだ。この場には一つたりとも真実はない。俺は何もしてないというのに。
この状況下で弁明などできるはずもなく、彼女は失い、もれなく友達も失った。
―——・・・
そして、勉強もろくにしなかったおかげでたいした偏差値の高校に通うことができることともなく、底辺高校でぐれて女遊びが止められなくなっていた。会話も必要のない、高校時代初期の女との関りはそれぐらいだった。
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