1‐1.‐2.

「迷子になっちゃったの?どこの学校の子?案内しようか?」

「えっと...」

口を開きかけたとき気が付いた。はっきりと目に見える現在の建物は神社やお寺のようなものではない。そもそも神社やお寺などは今現在数が少なく珍しいものだ。それに対していつものように幻像が重なるいつしかの建物は神社だった。そんなに大きな敷地と大きな建物でもないが、小さくはない。だとすれば、この巫女のお姉さんは昔の人?神社がないのに巫女さんはいないよね?

「今は西暦何年ですか?」

一瞬きょとんとした顔で不思議そうに見られたが、すぐに答えてくれた。

「今?今は二〇二五年よ。」

このときに僕は知ったのだ。いつも重なって見える幻像は約一〇〇〇年前の物だということを。でも、人を見たのは初めてだ。一〇〇〇年前の幻像はやはり幻像でしかない。実際に存在したのかも定かでない夢を見ているかのようだった。

「たぶんお姉さんに学校名言っても分かんないと思う。」

「もしかして方向音痴なのバレちゃったかな?」

「・・・。」

これは多分現代の人だったとしても学校に辿りつけないやつだ。まあいいか。今日は学校サボってしまおう。今の時代は楽なもので、自分の携帯で学校に欠席メールを送ることができる。だから、親にバレるのは三者面談のときまで平和なのだ。バレたら・・・潔く怒られればいいか。

「不思議ね。迷子になっちゃったのに焦らないの?」

これはよく言われることだ。地震の時もそうだったが、命の危機があろうが、二度と家に帰れなかもしれないという可能性があろうが、泣いたり喚いたりすることは産まれてから一度もない。おかげで冷静すぎて怖いとよく大人に言われたものだ。

「泣いたり喚いたりしてほしいの?」

と、言ってみると、巫女のお姉さんは声を抑えて笑っていた。それがまた可愛くて、これが僕の初恋だった。

 家にはお姉さんに大きな道まで案内してもらうことができたので帰ることができた。ここら辺は今も昔の原型をとどめているらしい。


 翌日の朝はいつもより三十分早く起きて家を出た。それをママに驚かれたが無視した。昨日お小遣いで買った枯れないユリの花を手にもって昨日と同じように神社へ足を運んだ。

「おはよう。また来てくれたの?」

昨日と同じ笑顔の巫女さんに出迎えられ、僕の心臓は高鳴る。

「おはようございます。」

冷静を装って挨拶をするも、手の中にあるユリの一輪花束に汗の染みが付く。それに僕は気づかなかった。どう渡せばよいのか分からなくて、目を合わせられずに無言で押し付けるように差し出した。

「まぁ。」

それでも嬉しそうな声を僕の耳が捉えて離さない。

「あげる。」

それに対してぶっきら棒な口調で全くカッコよくなかった。

「ありがとう。」

感謝の言葉が訊けたときにようやく顔を上げることができ、巫女のお姉さんの表情が見えた。嬉しそうな笑みに反し、目には涙を浮かべどこか悲しそうだった。

「え?嬉しくなかった?」

巫女のお姉さんは首を横に振る。

「嬉しくて仕方がないの。」

確かに巫女のお姉さんはそう言った。でも、どこか悲しげな顔をしていたのがちらついて胸がチクりと痛んだのだった。

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