1‐2-1.

 「湊君おはよう。」

「おはよう。」

隣の席の大人しそうな女の子に挨拶された。返すと、次は後ろの席のやつに挨拶され、横ではなく天井を一回見たところでもっと後ろに背中を倒すことで彼の顔を見た。

「おはよう。」

挨拶を返すと正面に戻って横から後ろの席に体を向けてやる。

「お前さあ、昨日休んだの仮病だろ。風邪ひいた、てどこがだよ。」

「一日限りの軽い風邪だよ。」

「決め顔で言うな。」

今日も馬鹿みたいな話をして、馬鹿みたいに笑い、一日が過ぎていく。


 「ねぇ、湊君。」

「ん?」

二時間続きの図工の時間に、隣の席の女の子、寿葉に話を振られた。図工の時間は基本的に集中しすぎてグループ内の会話に入らないが、声を掛けられた時だけは別だ。

「湊君、て好きな人いないの?」

「好きな人?」

「そう、好きな人。」

僕は目を瞬いて考えた。好きな人?人を好きになる、てことあるの?そんな好きな食べ物みたいに。小学生だった僕は色恋沙汰と言うもの事態を知らなかった。だから、寿葉からの好意に気づくことはなかった。

「友達と家族はみんな好きだよ?」

「そうじゃない!」

怒ったのは寿葉じゃなくて、活発な女子の三波だった。なんで?

「好きな人はね、『特別』ていう意味だよ。だから一人じゃないとだめなの!」

「三波ちゃんもういいよ。座って?ね?」

寿葉が三波をなだめるのをぼんやりと眺めながら考えた。人・・・特別?

「よく分からない。」

首を横に振って正直な事を言うと、寿葉はどこか悲しそうな顔をした。

「そっか。」

三波は苦い顔をして何か言いたげだった。何か言った方がいいかと身を乗り出すが、この微妙な雰囲気を代わりに太郎というやつがわざと元気そうな声を張り上げてカバーしてくれた。周りが大爆笑で湧き上がる中、先ほどの表情とは異なり寿葉もうっすらと笑っていて、それでも三波はまだむすっとた表情で目の前の作業に取り組んでいた。

 まもなくチャイムがなり、談笑していたところにありがたい先生からの説教を受け取ることになる。

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