KAC20237 酔うための酒のまずさといったらない

白川津 中々

 自分を騙すように「疲れているから」と独りごち、今日も酒を飲む。

 とうとう無視ができない程身体への不調が自覚できていた。肩腰の痛み、胃のもたれ。目の霞や息苦しさ。軽度の吐き気。常に疲れ切ってしまって、昔のように仕事をする事ができない。思考能力の衰えが一番堪える。全て酒のせいと分かっていながら、辛苦の絶えない毎日を忘れるために酒を飲み、また体調を崩す。


 

「酒は控えてください」



 いつぞや、医者にそう言われた。

 その場では「はい」と返事をした。 

 その時はやめるつもりだった。

 その日から酒が飲まないと誓った。

 夕方にはすっかり忘れて酔っぱらっていた。



 今日もそうだ。私は酒をやめるつもりだった。今日と言わず、毎日思っているのに一向に飲む量が減らない。断酒の効能よりも飲酒のためのいいわけの方が強く心に響き、「疲れているから」と呟いてはグラスを口に運ぶのだ。最近では手の震えがとまらなくなってきた。もう長くは持たないかもしれないが、幸いにして独身であるから迷惑は最小限に抑えられるだろう。妻も子もいない事に安堵する。長く付き合っていた女とも酒が原因で別れた。その時も何かいいわけを述べていたような気がしたが既に覚えていない。ともかく私は、女よりも酒を選んだ。



 グラスが渇いた。ウィスキーと炭酸を注ぎ、また飲む。

 楽しむための酒ではなく酔うための酒のまずさといったらない。安い劣悪な酒が粘膜と脳を焼き人間性を希釈していく。血中に安酒が入れば入る程、私は人として大切なものを失っていく。

 最後には何が残るのだろう。あと何年人間として生きていられるのだろう。見当もつかず、恐ろしく、酒を飲んで麻痺させる。私の余命はあとどれ程あるのだろう。せめて人である内に死ねたらと、最近思う。


 グラスが空いた。また酒を注ぐ。

 飲めば飲め程失っていく。けれども私はやめられない。



「疲れているから」



 そんないいわけをして、駄目になっていく。

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