捨て犬

細い声。

注意していないと、聞き逃してしまう。

感情の無い飼い犬。

飼い犬。


首輪を欲している。


しかし、首輪はおろか、居場所をも失くした犬は、ただ彷徨う事しかできない。


そうする事でしか、自分を保つ術がなかった。


何処に行っても、息を吸うことさえ許されない気がして、ただ彷徨う。


暗闇を閉じ込めた部屋の、空虚を見るような目。


もう慣れてしまったのだろう。


酔っ払いに唾を!缶ビールの残りを!愚痴を!精子を!


悪気の無い子ども。また、ある子ども。

擦り切れた会社員。

金で男と悦を買う、社長の妻。


すべて見飽きてしまったように、刺激が意味を失くしてしまったようだ。


そうっと、抱きしめてやろうとした。


慣れたように身を任せる。

ほとんど、抵抗する素振りは見せなかった。


その事実が、どれほど哀しい事か。


空っぽに見えても。

こんなにも、あたたかいのに。

こんなにも、存在を証明しているのに。

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捨て犬 高橋優美 @yukumi

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