第202話 気合でえいっ

 おばばさまから青色掻き混ぜ棒が錬成触媒しょくばいの役割を果たしていると聞いて、水龍ちゃんは、それを確認するための実験を思いつきました。


「ばばさま、これを使って錬成触媒の実験をしましょ」

「ほう、ヒールジカの角の欠片じゃな」


「うん、青色掻き混ぜ棒を作ったときに余った角の欠片なの」

「そうかそうか。それじゃぁ、確認のための実験をしてみようかのう」


 水龍ちゃんが、手にした青色の欠片を見せて実験を提案すると、おばばさまは、嬉しそうに提案に乗ってくれました。


 実験は簡単で、新しい白樺茶ノ木の葉っぱとヒールジカの角の欠片を一緒に錬金釜へ入れて、ミスリル製の掻き混ぜ棒で錬成焙煎ばいせんを行うというものです。


 水龍ちゃんが、試してみると、さっそく効果が確認できました。


「すんすん、紅茶の香りがするわね」

「なー」

「うむ、ヒールジカの角の効果じゃのう」


 予想通りの結果に、トラ丸もおばばさまも笑顔で声を上げました。


「しかし、お前さんは、よくもこれでポーション錬成が出来たものじゃな」

「ん? 普通に出来たわよ」


 おばばさまが、青色掻き混ぜ棒を手にして少し呆れた顔で零すと、水龍ちゃんは、こともなげに普通のことだと言いました。


「ミスリルと違って、かなり魔力の通りが悪いのじゃが?」

「う~ん、その辺は、気合でえいって感じ?」


「魔力でごり押ししておったのじゃな……」

「そうかしら?」


 呆れ顔のおばばさまに、水龍ちゃんは、あっけらかんとしたようすです。そして、なぜかトラ丸はドヤ顔です。


 水龍ちゃんが錬成焙煎白樺紅茶を作り終えると、今度は、おばばさまがヒールジカの角の欠片のあるなしで、白樺茶ノ木の錬成焙煎ばいせんをして比較確認を行いました。欠片なしの錬成焙煎を行うのは、明らかに違いが出ることを確認することが狙いです。


 結果は予想通りで、ヒールジカの角の欠片ありでは紅茶となり、ヒールジカの角の欠片なしでは緑茶となったのでした。





 それから数日、水龍ちゃんは、青色掻き混ぜ棒を使った錬成焙煎白樺紅茶をもっとおいしく仕上げるために、いろいろと実験を繰り返しました。


 ちなみに、水龍ちゃんは、何度かヒールジカの角の欠片を入れてミスリル製の掻き混ぜ棒で錬成焙煎白樺紅茶を作ってみましたが、青色掻き混ぜ棒を使う方がしっくりくるといって、従来通り青色掻き混ぜ棒を愛用することにしています。


「うん、今まで実験した中で、これが一番おいしく感じるわ」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸は、今朝から実験で作った3種類の錬成焙煎ばいせん白樺紅茶を飲み比べて、その1つが、これまでで一番美味しいと満面の笑みをみせました。


「ばばさまとマーサお姉さんに感想を聞きましょ」


 水龍ちゃんは、そう言うと、最高の出来だと自負する茶葉をお茶缶(再利用)に入れて、日付と錬成焙煎白樺紅茶と書き入れたラベルを貼り付けました。幾重にも上貼りされているラベルが、それだけ実験を繰り返してきたことを物語っています。


 紅茶づくりの実験から試し飲みまで調合室で行っていた水龍ちゃんは、テキパキと片付けをしてからトラ丸とリビングへ向かいました。


「ばばさま、いい感じの紅茶が出来たから飲んでみて欲しいの」

「なー」

「ほうほう、それじゃぁ、マサゴロウも呼んで、お茶の時間にするかのう」


 水龍ちゃんとトラ丸が声を掛けると、本を読んでいたおばばさまが、嬉しそうにお茶にしようかと立ち上がり、マーサさんを呼びに行きました。


 水龍ちゃんが紅茶を入れている間に、マーサさんがやってきて、お茶菓子にワッフルを準備してくれました。


「う~ん♡ いい香りねぇん♡」

「ほうほう、こりゃぁ、美味い紅茶じゃな」


 マーサさんとおばばさまが、錬成焙煎ばいせん白樺紅茶の感想を述べると、水龍ちゃんはとても嬉しそうな笑みを浮かべ、トラ丸はドヤ顔です。


 そこで、ピンポ~ン♪と玄関のチャイムが鳴りました。

 水龍ちゃんとトラ丸が玄関ドアを開けると、プリンちゃんの姿がありました。


 水龍ちゃんは、陽気に挨拶を交わすと、ちょうどみんなでお茶をしているからと、プリンちゃんを招き入れました。


「おー! おいしい紅茶だなー!」

「天使ちゃんが作ったのよん♡」


 プリンちゃんが、錬成焙煎白樺紅茶をひと口飲んで感想を述べると、マーサさんが自慢げに水龍ちゃんが作ったのだとアピールします。もちろんトラ丸はドヤ顔です。


「これなら高級品として売りだすことが出来るぞー!」

「うふふ、ありがと。お世辞でも嬉しいわ」


 プリンちゃんが、高級品だと褒めると、水龍ちゃんが、はにかみながら答えます。そして、やはりトラ丸はドヤ顔です。


「これが白樺茶ノ木の葉から作ったのじゃと聞いて、どう思うかの?」

「おー! それはすごいなー! 初めて飲んだぞー! だが、おばばがそんな顔するということは、それだけじゃないのだろー?」


 おばばさまが、もったいぶったように問うと、プリンちゃんは、目を輝かせて驚いて見せた後、鋭い視線で問い返しました。


「もちろんじゃ。そいつは、わしの知らなかった錬成方法で焙煎ばいせんした紅茶じゃよ」

「ほー! おばばが知らないとは、非常に興味深いなー!」

「いやん!♡ それって、もう新しい錬成技術じゃないのよん!!♡」


 おばばさまが、ニヤリと口角を上げて言うと、プリンちゃんが、とても楽しそうに興味を示し、マーサさんが、身を捩りながら驚きの声を上げるのでした。

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水龍ちゃんのポーション革命 すずしろ ホワイト ラーディッシュ @radis_blanc

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