第4話 co-incidence

灯台の被害は想定以上だった。先端のアンテナが根元から破損していて、屋根のコライト状の部位にも欠損が見られる。海杭の自律修復に期待するにしても、海杭はその性質上上方には生長しづらい。


「この傷治りますかね?」

「てっぺんか。難しいが、姫島なら治せるかもしれないな。一番古い階層に私が入隊前の灯台の計算書があると聞いたことがある。」

「その後の他の島の灯台はコストの関係で組立式だが、姫島の灯台は姫島自身が作り出したものだ。私が来たときにはもう完成していたが、計算書には灯台の生成プロセスが書かれているのだろう。」

「この灯台、全部自生だったのですか??」

陸上の海杭が自律的に高さ10メートル近くまで育つとは、教科書的にはにわかに信じ難い。

「そうだ。普通の育て方では無理だが、手間を惜しまなければ。」


下層に潜るのは苦手で姫島はまだ数回しか降りたことがないが、上に育つ姫島の姿を、姫島は見てみたいと思った。




計算書は思いの外すぐに見つかった。灯台建設にあたっての通常の膨張促進との違いは治具と調合のようだが、なにより異なるのは基材の補給頻度だった。1時間にA,B,C材をそれぞれ2回、それを12時間続けると30センチ。10分に1回の補給である。


この方法を改良すれば欠損の補修はなんとか再現出来そうだ。姫島は早速作業に取り掛かった。ただ、着手から先が長かった。島は自身を老体だと言わんばかりに動きが悪い。

頻度を変え、調合を変え、欠損が埋まり始めたのは、作業開始から1週間が経った日曜の朝だった。眠い目をこすりながら姫島はつぶやく。「自分を老体だと思っているのは姫島の思い込みですよ。海杭の寿命はまだ誰も知らない。寿命があればの話ですが。」



陸研本社が姫島で実験を計画しているのを知ったのはその日の午後のことである。

報道によると、今回の実験は国の衛星計画に関するもので、100年前の試験体採取とそれをもとにした試験杭2本を生成することらしい。


末端の運転員が本社の動向を報道発表で知るというのはよくあることで、運転に関わる正式な通達が来るのは早くて明日というところだろうか。

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コンクリート・フリーク 奥 未道 @ao_weidao

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