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透峰 零

でも、面白かったんだからしょうがないと思う

「さて、何か言い訳はあるかしら?」

「ありません! 申し訳ありませんでしたぁっ!!」

 仁王立ちする嫁の美香の前で、俺はコメツキバッタよろしく頭を下げた。

 理由は簡単。彼女が「自分の前では決してやるな」と言っていたゲームを、うっかり俺がプレイしていたからだ。

 彼女が嫌がる理由は俺だって理解できる。彼女の悲鳴に、何度も止めようと思ったのも事実だ。

 でも、無理だった。

 美しいグラフィック、豪華な声優陣、魅力的なキャラクター。

 何より、ノンストップで進めたくなる巧みなストーリー。

 今回でシリーズナンバー八を数えた本作は、絶好調だった七作目までを作っていた会社が倒産、別会社に買い取られてから初めて作られた続編だった。

 ナンバー八から七が出るまでにかかった歳月は、実に七年間。ファンの間では「魔の七年間」やら、七でゲームそのものが終わったのではないかと囁かれたことから「アンラッキーセブン」やらと散々な言われようだった。

 ともかく、待ちに待った新作がついにリリースされたのだ。

 普段は本屋なんていかないマッチョな友人に引きずられるように連れていかれた先で、平積みされていた雑誌には件のゲームが発売日と共にデカデカと特集されていた。雑誌を買い、速攻で予約をしたのは言うまでもない。

 そうして迎えた今日の発売日。

 本当は美香がいない間にプレイする約束だったが、俺は我慢ができなかった。幸い、彼女の帰宅予定までにはまだ時間がある。


 少しだけだから。オープニングムービーを見るだけで止めれば大丈夫だから。


 自分の中の悪魔の囁きには勝てず、俺はソフトに手を伸ばしてしまった。

 今考えれば馬鹿だと思う。オープニングムービーだけで止めれるはずがないのに。

 そこで止められていたならば、俺がこうしてコメツキバッタになっていることもなかっただろう。

「せめて私が帰ってくる前に止めておいてよ。なんで続けちゃうの?」

 膨れっ面が想像できるような拗ねた声に、俺は思わず顔を上げた。

「ストーリーが良くて引き際を見誤りましたぁっ!!」

「だから、そういうこと言わないでよ!」

 悲鳴と共に顔面に飛来してきたのは、チェストの上に置かれていたぬいぐるみの数々だ。投げつけられたうさぎやネズミが、床の上でぐちゃぐちゃに跳ね回る。

 顔を真っ赤にした彼女に、俺は真顔で続けた。

「今回もめちゃくちゃ面白そうなので期待してます! 今は主人公が深夜の散歩に出掛けているファーストステージですが、あそこで会った少女との因縁は」

「止めろおおおお!」

 叫びと共に渾身の力で投げられた大根のぬいぐるみが、俺の口を物理的に塞いだ。

 シナリオを書いた美香メインライターは、ついに頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。これまたいつものことだ。

「嬉しいけど!! 恥ずかしいから目の前で感想言うのはマジで止めろ! いや本当止めて!」

 言葉を取り繕う余裕もなく美香が身悶えている間に、俺はメニュー画面を開いていそいそとセーブだけ済ませた。もしもぬいぐるみが筐体に当たったら悲劇である。

「え、嬉しいなら進めても良い?」

「良いわけあるか阿呆ー!」

「ちぇー、良い理由わけだと思ったんだけどなぁ」

 再びぬいぐるみが飛んでくるのを避け、俺はわざとらしく不満の声を上げて笑った。

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