言い訳するほど仲がいい?

りり丸

言い訳するほど仲がいい?

「ねぇ、なんで? 約束したよね?」


 僕は同い年の交際相手の女性、美咲みさきに正座をさせられて強い口調で咎められている。


「えっと……その……」

「あ? はっきりしてよ。次の休みに海に行くって、話し合ったよな?」


 季節は夏真っ盛りで美咲の言うように次の休みに海に行くことになっていた。

 しかし、とある理由で行けなくなってしまった。

 その理由は僕の個人的な感情によるものであるが、それを彼女に気づかれたくない。

 きっとそれは幼稚すぎる気がするからだ。


「仕事が立て込んでいて、休日出勤なんだよ……」

「何のためにここ数日残業しているんだべ? 拓也たくや、そんなに仕事のこなし方、下手だったか?」

「それもそうだ……」


 正座している僕を横目に一緒に買いに行った水着を取り出して、それを自分の体に当てている。

 鮮やかなピンク色のビキニである。


「これ折角買ったんだ。拓也は見たくねぇか? 彼女の水着姿?」

「……見たい……」

「じゃあ、なんで行けないか、正直に言いなさいな」


 少し彼女の顔が曇ってきている。

 一緒に行けないかもしれないことが悲しいのだろうか。

 社会人で共に暮らしてからもう半年にもなるから、彼女の様々な姿を見ている。

 彼女は僕にはもったいないぐらい素敵な女性だ。

 怒ったらすごく怖いけども、普段は活発な性格で明るくしてくれるし。

 そして、周囲も羨ましがるほどの美人である。

 体格も若々しく眩しいほどの艶である。

 彼女を他人に見られるのが嫌だ。

 そこにでもあるような幼稚な理由で彼女を困らせてしまっている。


「ごめん。美咲を他の人に見られたくないだけなんだ」


 彼女は急に近づいて頬に軽く口づけをした。


「可愛すぎる理由だ。他の人に私の水着姿見られたくないって?」

「うん……」

「その気持ちは嬉しいけどな……楽しい思い出作りたいね……。広い海だよ。誰も私たちなんて気にしてないよ……」


 可愛い顔で上目遣いをされたら頷くしかない。


「そうだね」

「やった。私の美貌で拓也を動けなくしてやるからな。楽しみだね~」


 嬉しそうな顔をして、水着をまた体に当てたりしている。

 でも俺は自分の言い訳で彼女を悲しませてしまった。

 すんなり言えば正座なんてしなくて済んだだろう。

 彼女が受けた悲しみの分、俺の言い訳の分だけ俺の足の痺れとなっている。

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言い訳するほど仲がいい? りり丸 @riri-3zuu3

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