そういうわけで遅刻しました【KAC2023】

近藤銀竹

そういうわけで遅刻しました

 まずい。

 また寝坊。

 遅刻だ。

 今月七回目。

 今年度は、えーっと……数え切れない。

 どうしてこうも起きられないんだろう。

 ……くうう、もうめぼしいいいわけは使い切ってしまったぞ。

 こういうときは、信頼のおける同僚、雄二に相談だ。


 緊急事態だから電話しよう。


 ポピポピポピピン、ポピポピポピピン……


『なんだよ』


 出た! 心の友よ~!


「雄二、緊急事態なん……」

『また遅刻だろ? どうせ昨日も夜遅くまで頂点の伝説なFPSでもしてたんだろ』


 ……身も蓋もない。


「そう言わずに、助けてくれよ〜。もう遅刻しすぎて、いいわけが思いつかないんだ。頼むよ、いいわけ大王!」

『褒められてる気がしない』


 暫しの沈黙。なんやかや言って助けてくれるのが雄二クオリティ。


『中央線の遅れは?』

「それ前回使った。しかも最近、母寿ぼす課長が電車の遅延をチェックしてるらしくて」

『ヤンキーに絡まれたら?』

「今シーズン六回絡まれてる」

『お年寄りを助けるのは?』

「昨日助けて、食事をご馳走になった上に娘さんとの縁談を持ちかけられたことになっている」

『…………』


さすがに呆れられてしまった。


『ゲーム封印しようか』

「それは勘弁だよー」

『産業医に相談した方がいいんじゃ……』

「相談しなくて済むように、ゲームで息抜きしてるんだよー」


 はあああぁぁぁ……、という長い溜め息がスピーカーから聞こえてきた。


『お母さんが起こしてくれなかった』

「子供か」

『靴下が足に届かなかった』

「お年寄りか」

『急な発熱で』

「子育てか」


 ううん、という唸り声が聞こえてくる。ごめんな雄二。


『こうなったら、親の葬儀で……』

「もう父親ニ回、母親三回やってる」

『数がおかしいだろ』

「さすがに、やっちまったと思った。母寿課長からも『複雑な家庭なんだな』って複雑な顔された」

『お前……毎朝課長の写真を拝んだほうがいいぞ』


 もはや哀れみの声色な雄二。


「……ん?」


 首の後ろに違和感……というか、ジャケットになにかが引っ掛かって……


「うわあっ!」

『どうした!?』

「く……クレーンのフックにジャケットをひっかけられた! いま三階くらいの高さだ。助けてくれぇ!」

『それだ! 今日の遅刻のいいわけは、クレーンに吊られて下りるのに手間取った、がいい!』

「いいわけないだろ!」

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