駆け落ちごっこ

くれは

どこかへ

 わたしたちは、駆け落ちをした。

 正確には「駆け落ちごっこ」なのだけれど。

 発作的な行動だった。

 中学生のわたしたちの世界は狭くて、学校の中も家の中でも、空気が足りなくて溺れそうだった。

 とにかくどこでも良い。逃げ出したい。

 そう言えば、彼はわたしの手を引いて一緒に逃げ出してくれた。

 学校の帰り道で、わたしも彼も制服のままだったし、荷物だって学校に行ったときのままだった。

 鞄の中には教科書やノートやプリントや、文房具。着替えなんか持ってなくて、せいぜい彼が学校指定のジャージを持っていたくらいだ。

 そんなごっこ・・・でも、本当に遠くに行ってしまえば、本当になるのだと思っていた。

 それで、二人で遠くに行く電車に乗り込んだ。行き先に表示された駅名はしっているけど、行ったことはないからよく知らない。

 最初は混んでいた電車も、郊外に行くにつれ空いてきた。

 それで二人で座席に並んで座った。

 窓の外は夕方で、電車の中にも赤い夕陽が差し込んできて、あちこちの金属がぎらぎらと反射して眩しかった。

 そのくせ車内の影は濃くて、周囲の人たちの顔はぼんやりと見えない。

 きっとこのまま夜になる。暗くなったら、制服姿のわたしたちは目立つだろうか。それとも、そんなこと誰も気にもかけないだろうか。

「もしも」

 わたしの声に、彼が首を傾けて振り向いた。わたしも隣を見る。

「誰かに何か言われたら、なんていいわけする?」

 彼は瞬きをして、それからちょっと笑った。

「しないよ、いいわけなんか。駆け落ちですって言えば良い」

「そっか」

「そうだよ」

 なんのあてもない、先もない、駆け落ちごっこ。それでもわたしたちは、真剣だった。

 真剣に、逃げ出したかったのだ。

 この電車はどこまで行くのだろう。わたしたちはどこまで行くのだろう。

 彼の手が、わたしの手を握る。隣を見れば、彼も真剣な顔をしていた。

 彼もきっと同じなのだと知って、安心した。

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駆け落ちごっこ くれは @kurehaa

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