言い訳してもダメだよ……

仁志隆生

言い訳してもダメだよ……

「くっそおおお!」

 深夜の公園の中。

 俺は近くにあった樹木に拳を叩きつけた。


「くそったれ! なんでだよ、なんかの圧力でもかかってんのかよお!?」


 木に当たっても仕方ないって分かってる。

 だけど、こうでもしないと気が収まらねえ。

 そんな言い訳を心の中で言いながら樹木を殴り続けた。


「ぜえ、ぜえ……あ」

 見ると手の皮がめくれ、ぐちゃぐちゃの血まみれになっていた。

 だが痛みは感じない。

 いや、心は痛かった……。


 ――――――


 刑事になって二年目。

 なんだかんだでやっていけそうかなと思った頃だった。

 

 地元で失踪事件が多数出だした。

 その中には俺の高校の先輩や後輩、幼馴染である星司兄さんと夕子姉さん。

 他にも教師である父さんの教え子達が何人か行方不明になっている。


 特に星司兄さんは失踪前日、俺にメールしてきた。

「婚約指輪買いたいんだけどいい店知らねーか? 本屋でその手の本立ち読み読みしてもネットで調べてもよく分からんし。あ、夕子には内緒だぞ」

 って。

 そんな人が自分からいなくなるはずないだろ。

 俺は皆の首謀者に攫われたのではないかと思っている。

 



 あの事件とは……星司兄さんと夕子姉さんが行方不明になったのと同じ頃。

 地元のショッピングモールで大規模な爆発事故が起こった。

 現場を見たが、あれ程の被害が出ているのに死傷者はゼロ。

 いやそこにいた人達が全員行方不明になっていて、今なお見つかっていない。

 連日ニュースに出ていて、テロ組織の犯行かとも言われているが……。


 俺は絶対そうだと思い、必死で課長に頼み込んで捜査に加えてもらった。

 だが手がかりを掴めないまま時は過ぎ……今日の事だった。




「『捜査を打ち切れ』って上からの通達が来た……」

 課長は静かにそう言った。


 俺は思わず課長に詰め寄って理由を聞いたが、分からないと言う。

 そして目を閉じて項垂れる。

 見渡すと先輩方も俯いて、悔しそうに拳を握りしめていた。

 俺を指導してくれていた筋肉マニアな先輩などは涙を流していた。

 


 俺は居ても立っても居られなくなり、もしかすると刑事部長なら知ってるんじゃと思い、部屋を出た。

 そして丁度どこからか帰ってきた部長をとっ捕まえて理由を聞いたが、教えられないと言う。

 教えられないって事は知ってるって事ですかと聞いたら「答えられない」だの「知る必要はない」だのぐちゃぐちゃ言う。

 もう怒りのあまり、思わず手を出してしまった。



「すまない、私も納得している訳ではないんだ。言い訳にしか聞こえないだろうが、それだけは信じてほしい」

 部長が駆けつけた同僚達に取り押さえられた俺に向かって言った。

 その目に涙を浮かべながら。


「……今日はもう帰りなさい。処分については後日連絡するから、それまで自宅で待機しておくように」

「……はい、申し訳ありませんでした」

「いいんだ。気持ちは分かるから……悪いようにしないからね」

 

 ――――――


「……散歩でもして気を紛らそうとしたけど、怪我しただけだったな」

 手を見つめながら、痛み出す前に家に帰って包帯でも巻こうと思った時だった。


「あ、お手々怪我してるね~」

 いつの間にかそこに白いシャツに赤いスカートという服装で、小学校低学年くらいかなって女の子がいた。

 

「え? ああちょっとね。ってお嬢ちゃん、こんな時間に出歩いちゃダメだよ。早く帰りなさい」

「帰るって、どこに帰ればいいの?」

 女の子が首を傾げて言う。

「いや、お家にだよ」

「お家なんか無いもん」

「え? ねえお嬢ちゃん、もしかして家出したの?」

「そんな事どうでもいいでしょ」

 女の子が膨れっ面で言う。

「どうでもいいわけないだろ。ねえ、もしなんか酷い目にあってるなら話してくれないかな? これでもお兄さんは」

「刑事さんでしょ」

「え? あ、前にどこかで会ってたっけ?」 

「ううん。けどあたしの事はよく知ってるよ」

「……なんで?」

 俺の名前知ってるんだ、この子?


「なんでもいいでしょ。それよりさ……もうやめてよ」

「え?」

「大臣のおじさん達は、ちゃんと言うこと聞いてくれたよ……」

 女の子の声が底冷えするように低くなった。


「な、何言ってるんだよ?」

「何って、分からないよね……優しいお父さんとお母さんがいて、仲良しのお友達がいるお兄さんには……」

「い、いやあのさ」

「ねえ、大人ってどうして言い訳ばかりするの? なんでちゃんと聞いてくれないの?」

「だ、だからさ、俺にはお嬢ちゃんの言ってる事がさっぱりなんだよ。だから教えてよ」

「……知らなくてもいいよ」

「いいわけないだろ! ……え?」

 いつの間にか女の子の周りに黒い霧のようなものが浮かんでいた。


「ぬふふふふ……七つの不幸が、出てきた」

 女の子が不気味で妖しい笑みを浮かべている。

「な、な、もしかして、化け物?」

「化け物はそっちでしょ」

「え? うわあっ!」




「ちょっとイラっとしたから爆発させよっかなと思ったけど、やっぱ可哀想だからこうしてあげたよ」

 少女は手にした星型のバッジを見つめていた。




 そしてどこかを向き、こう言った。

「ぬふふふふ……さあ、終わりの始まりだよ。言い訳してもダメだよ……」

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言い訳してもダメだよ…… 仁志隆生 @ryuseienbu

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