第8話
「う、裏切り者ってどういうこと?」
理解しても理解できてないふりをする。でも声が震えっぱなしで上手く取り繕えているかは分からない。
「トラディメントだよ。」
聞きたくなかった。でもしっかり声に出されてしまった。
トラディメント。教会関係者の裏切り者。教会関係者は一般人に知られてはいけないような情報を扱うことも少なくはないため、トラディメントは数ある犯罪の中でもトップクラスに罪が重い。でも彼女が堕ちてしまった理由が分からない。
「なんで、、、」
ジェナも簡単に背負いきれない罪だということを分かり切ってるはず。それに、この話を聞いた私が告げ口でもしたものなら殺されるかもしれないのに。なんで「別にいい」なんて言えたんだろう。
三人の顔を改めて見てみると相変わらず困ったように笑っていた。しかしその目は何かをあきらめているように見えた。やるべきことはわかってる。わかってるけど
「出来ないよ、、、」
いけないことだということは分かっいる。でも私は三人のことを知ってしまった。だから警察に押し付けることなんてできない。だけど私を大切に育ててくれたお母さんを裏切ることもできない。どちらがいいのか、判断ができずに考え込んでいるとジェナが決心したように口を開いた。
「私たちはもう人並みの人生なんて諦めているから、捨てたから気にしなくていい。でも私たちの勝手でリオを巻き込むのは嫌なんだ。」
ほら、やっぱり優しいじゃないか。トラディメントは普通、何か規則を破って教会を追放されるか自分の利益を優先する、非道な行動をし、なることが多い。でもジェナはそのどちらでもない。彼女は優しくて正しくて暖かい人だ。
「理由を教えてくれない?」
「え?」
突然の私の切り出しに三人は首を傾げた。当然か。
私は一人一人の目を真っ直ぐ見ながら言葉を続ける。
「トラディメントになった理由。」
「え、なんで?」
この流れで理由を聞くのは普通だと思ったが三人は目を丸くして驚いていた。
その反応に驚いているとジェナは不思議そうにしていた。
「理由なんて、そういう人たちを見てきたことはないの?」
もちろん生まれた環境的にそういう人たちを見てきたことはある。でも今まで見てきた人たちとジェナは違うと感じる。なんでろう。わからないけど目が違うのかもしれない。
「あるけど私はジェナ達のことを信じてみたい。だから理由があったのなら教えて欲しい。それにまだ私は三人と一緒に話したりしていたい。私にとってこの時間は当たり前で当たり前じゃない大切な毎日だから。」
私の言葉を聞いてアナとジェナは安心したように表情を和らげた。でもネウは硬い表情のままだった。
「、でも私たちと一緒にいるってことは、実の母親を裏切るってことになるんだよ。それでもいいの?」
もちろん罪悪感も不安もある。でも、ジェナ達への疑問や好奇心の方が勝っていた。私は息を吸い、決心して首を縦にふった。
ネウはまだ何か言いたげだったが、それを口に出すことは無かった。
そんな私たちを見てジェナは小さくため息をついた。
「そう思ってくれたのは嬉しいけど理由は教えられないな。でもそのうちゆっくり伝えていくよ。」
ジェナが残念そうに言い、いつもの調子に戻ったアナが茶化すように言ってくる。
「でもいいの?戻るなら今のうちだよ。」
アナの問いかけに私は返事をする。
「いいよ。これが夢見ていた幸せだから。」
Mend 想雪 @omoyuki
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