とある神様の罵詈讒謗(プロファニティ)【KAC20237】

銀鏡 怜尚

とある神様の罵詈讒謗

 貴殿きでんは、物語をしたためるときには、如何いかなることに気を付けておられるでしょうか。

 読みやすさですか。流行り物をテーマに扱うことですか。それとも、登場人物の個性ですか。


 『カケヤヨメヤ』というインターネット小説投稿サイトにて、KACカケヤヨメヤ・アブラカタブラ・コンペティションなるイベントが催されていると仄聞そくぶんします。


 これまで、六回に渡り題目が示達じたつされ、貴殿はその題目に沿った、あるいはその題目を包含した小説を、サイト上に上梓じょうししてきたことでしょう。


 第一回題目『書物屋』

 第二回題目『剥製』

 第三回題目『滅茶苦茶』

 第四回題目『夜更の闊歩かっぽ中に勃発した椿事ちんじ

 第五回題目『筋組織』

 第六回題目『薄倖はっこうその7』


 そのように小耳に挟んでおります。

 しかし、果たして貴殿はその題目に真摯しんしに取り組んだと、胸を張って言えますでしょうか。


 第一回では、あまりにも平易な題目だとたかを括り、自分の体験談を書きり、遠謀深慮せずに上梓したのではないでしょうか。


 第二回では、幼少期の回想に逃げ、それを童話形式に変換することによってお茶を濁してはいないでしょうか。


 第三回では、抽象的なテーマゆえ、困った挙句あげく、日常的な題材で該当しそうな物語に収束させたのではないでしょうか。


 第四回では、逆に具体的なテーマなので、てらって、ただの闊歩ではなく、アングラなストーリーへと色気を出したりしてはいないでしょうか。


 第五回では、また身近な題材に後戻りしたので、それがいかにも好きそうな女子たちのトークという形で上辺を取り繕っていないでしょうか。


 第六回では、ググっても登場しない珍妙すぎる造語に途方に暮れたものの、対義語『僥倖ぎょうこうその7』から、軽々かつ安直にそれを扱うスポーツとして野球を題材として思いつき採用してはいないでしょうか。あまつさえ貴殿の既出の野球小説のスピンオフという、それを読んでいない読者にはいささか不親切なおまけつき。それを今、流行りのテーマを絡めて、ゆるしを乞おうとしていないでしょうか。

 さらに、そのスピンオフが本作より★の数を超えてしまって、周章狼狽しゅうしょうろうばいしてしまっているのではないでしょうか。


──え? 何でそこまでズバリと胸の内を読んでくるのだって? わらわは貴殿のことを何でも知っています。


 そういった怠慢や姑息手段の積み重ねが、今後の貴殿の執筆のクオリティーを下げるとは思わなかったのでしょうか。


 貴殿のカケヤヨメヤ生活は、こんなんでなんでしょうか?


──いいわけない?

 その通りです。執筆のクオリティーを下げることは、ひいては読者を裏切ること。読者は、自分の貴重な時間を割いて、貴殿の愚作を読みに来てくださっているのですから。


──え? お題は提示されてから2日乃至ないし3日間で上梓しないといけないし、仕事をしている人間はさらに時間は制限されるから、短編といっても厳しい?


 それこそっていうものです。これだから、貴殿をはじめとするカケヤヨメヤの作者たちは、あまちゃんになっていくのでしょう。


 もう、これではカケヤヨメヤに将来はありません。『文豪になれや』に、みんな読者は移ってしまうことでしょう。


──え? 俺のことをけなすのは良いとしても、他のカケヤヨメヤ作家さんは素晴らしい作品を書いてるんだから、馬鹿にするな?

──え? 俺だって、短い時間の中、様々なジャンルの様々な文体の小説に挑戦しているんだ。悪口ばかりじゃなくて褒めることはないのか?

──え? そうやって偉そうなこと言ってるけど、そういうあんたはどうなんだ?


 わらわは神、木話賭耶姫このはなしかけやひめです。妾は全知全能の作家と読者の神。作者の心、読者の心が分からないわけがありません。


 ですから、妾の忠言に貴殿の耳を傾け、妥協や譲歩に甘んじることなく、しっかり執筆に精進しなさい──って、え?


 妾という一人称代名詞が胡散うさん臭いって? どこが!?

──え? 妾は女性の謙譲の一人称で、腰元など貴人に仕えた女性の一人称だから、神様が使うのがそもそも間違っている? そもそも一般人である俺に対して、『貴殿』という尊敬の意味を持つ二人称代名詞もおかしい。『作家と読者の神』とか何か言ってるけど、それは嘘八百で出まかせじゃないか?


 よくも……、よくも……!?

 妾は、貴殿もといカケヤヨメヤの未来を憂懼ゆうくして、慈悲の御心みこころいましめてやってんのに、そのような戯言たわごとで、妾に楯突くというのか。無礼な……!


 ──え? そういう新興宗教まがいには乗らない?

 狼藉ろうぜき人が! 妾は神だ!


 ──え? 俺には、読者という神様がいっぱいついてる!? そもそも、執筆でマウントなんか取らない。書きたいものを、そして読者という神様が喜べるものを楽しく書ければ、それで構わないと?


 それが慢心というもの! 楽しんで書いてられるのも今のうちだ!

 たちどころに、貴殿が『神様』などとのたまっている読者も減っていくぞ!


──え? そういうあんたは、俺の作品を詳しく知ってるじゃないか? そういうあんたは、ひょっとして俺のファンなんじゃないのか?


 んなわけないだろう。貴殿は慢心している! ネタが尽きたのか、マンネリ化してるだろう。

 異世界物とかホラーとかサイエンス・フィクションとか挑戦したらどうなんだ!


──え? それが、あんたの希望なのか? じゃ挑戦してやるよ? 木話賭耶姫あんたが、俺のファンだってことは分かった?


 マジでマジで!? めっちゃ嬉しいんだけど! 銀鏡怜尚の作品、実は超絶ファンでさ? そんな『推し』作家さんが、異世界ものとかホラーとか、想像するだけで垂涎すいぜんモンじゃん!? 

 マジ、約束だよ! カケヤヨメヤコンまで待つからさ! とびっきりの作品、待ってるねっ!

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