チートな王子は愛しい婚約者のために何度でも世界の理を砕く

桐山じゃろ

チートな王子は愛しい婚約者のために何度でも世界の理を砕く

 彼女は生まれたときに、悪い魔女から呪いをかけられた。

 結果、不運で、病弱で、常に命の危機に晒される儚い存在になってしまった。


 一方私の方は、幼い頃から膨大な力を体内に蓄えていた。

 力とは主に魔力のことだが、それ以上の名も付けられない不思議な力を持っている。

 全ての精霊は私の足元に傅き、女神でさえも私に肩入れした。


 私は大国の王子で、彼女は公爵家の令嬢。

 彼女は私の三年後に生まれ落ちてすぐ、私の婚約者となった。



 悪い魔女が彼女に嫉妬から呪いを掛けた理由がよく分かる。

 彼女は、とても美しく清らかだ。

 しかし呪いのせいで、十日に一度は命が危険に晒される。


 守るのは、強大な力を持った私の役目だった。


 生まれてすぐ、王城へやってきた彼女に、侍女が誤って熱湯の入った桶をぶちまけかけた。

 私は魔術でもって、彼女に結界を張り、熱湯を防いだ。


 彼女は一歳の頃に、不治の病に掛かった。

 その頃には、魔女の呪いが本物であると確信され、彼女はその両親と共に彼女を守れる存在である私のすぐ近く、つまり王城で暮らしていた。

 私は魔術と、精霊の力を総動員して、彼女を癒やした。

 当時四歳の私がそれを成すために、私の身体は急成長を強いられた。

 四歳だというのに身長は父を超え、声変わりをし、騎士団長との手合わせで負けることがなくなった。


 彼女が四歳の時、突然悪い魔女が城に現れた。

 三年前に亡くなっているはずの彼女が生きていることを、どこかで聞きつけたのだ。


 魔女と私の戦いは、かろうじて私が勝ったが、私は殆どの力を費やし、十日ほど眠りについた。


 その間に、先に力を取り戻した魔女により、彼女は呆気なく殺されてしまった。



 十日後にようやく目覚めた私は、女神に希った。

 彼女の命を取り戻すためには、時間を巻き戻す必要があった。

 代償は私の寿命、私の成長だった。

 構わなかった。

 彼女が生きて、私の傍にいてくれるのなら、何だって犠牲にしてやる。


 彼女は蘇り、私はまた歳をとった。



 彼女の十歳の誕生日に、また悪い魔女が現れた。

 しかし歳を取り、成長した私の力は、魔女の力を大きく凌駕していた。

 その力でもって、魔女に解呪を迫ったが、魔女は出来ないとのたまった。


 呪いは、対象が死ぬまで消えない、と。


 とりあえず魔女は殺し、私は彼女の呪いを解く術を探した。

 女神にも成し得なかった解呪の術を、私は五年掛けて編み出した。

 代償は、私の寿命だ。

 私と彼女は、容姿だけ見れば祖父と孫ほどにも離れてしまった。




 彼女は十六歳の誕生日に、手紙を置いて城から消えた。

 私のような老人と結婚したくないと、書いてあった。


 彼女は日頃から、私が何度も彼女を助けていること、その代償として老いたこと等を、周囲から言い聞かされていた。

 それでも我慢ならなかったのだろう。

 鏡の中の私は醜く老いて、取り返しがつかなくなっていた。

 自分の容姿だけは、自分の力でもどうしようも出来なかったし、精霊や女神は私が幾度も禁忌を犯したことで、とうに見限っていた。

 これでは、美しいものを好む彼女に好かれるはずがない。


 愛するものに生涯を捧げられただけ、私は幸せだったのだと、自分に言い聞かせた。

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チートな王子は愛しい婚約者のために何度でも世界の理を砕く 桐山じゃろ @kiriyama_jyaro

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