拝啓 お先真っ暗な僕へ
僧侶uyu
やあ。中三の君だよ。小六の自分!
いやいや。随分と時化た顔をしているじゃないか。まあそりゃそうだよね。なんたって君はあのT海中学への受験に失敗したんだ。まあまあ。言いたいことはわかるさ。「失敗」じゃあないってことだろ?そんなことは分かってるさ。ふふ。そりゃあ自分だもん。当時なに考えてたかくらいは覚えているさ。
中学受験なんて無謀な方向に舵をきったのは君の両親。やりたくないって抗い続けた、友達と離れたくないって抗い続けた。その結果の不合格だろ?おめでとう。その点においては、十分に成功したと言えるじゃないか。じゃあ何へこんでるか当ててあげよう。そうだ。怖いんだよね。不合格という結果を受けて、親から罰せられることが、この先の公立中学校での生活を、罰という形で親から制限されることが、今まで以上に管理されて地獄のような生活を送るであろうということが。
ふふ。まあ未来の君であるボクが教えてあげよう。
結論からいうと君は二年半、卑屈な思いをすることになる。部活には入らせてもらえないよ。授業が終わって部活にいく子、クラブにいく子を恨めしそうに見ることしかできない。帰りの会が終わって、空が少し赤くなるあの時間。あれは本当に惨めなもんだよ。あ、小学校の自分も部活やってないか。そう。君が今も感じてる惨めさは中学校でも引きずることになる。
そして得意だったはずの勉強もダメになる。中一の一番初めのテスト、一学期期末。お?何で中間じゃないの?って思った?あと一週間ぐらいしたら世界がめちゃくちゃになる。なんでも変なウイルスが蔓延ってね。その影ky...まあいいや。どうでもいいね。話を戻そう。一学期期末。きみは64位とかいう信じたくもないような順位をとることになる。勉強したくなかったんだよねw疲れちゃってさ。中一の君は今以上に苦しい。今の君が十分辛いことは知ってるけど。意味わからん正義感振りかざして怒鳴り散らす厄介なクラスメートにも出会う。君は親の言うことちゃんと聞いてT海行けばよかったって後悔する。今は考えられないだろうけどね。
でもね。中二からは少し光が差し込んでくる。中二から中三までの間に、君の人生、考え方、取り組み方を大きく変えてくれる三人の人に出会う。一人目から話していこうか。そいつとは中二、中三でクラスが同じになる。仮にSとでもしておこう。本名は伝えないよ。未来で知るのを楽しみにするといいさ。君がそいつに抱くファーストインプレッションは最悪だ。なんか堅苦しいし、クソ真面目。正直にいって大っ嫌いだった。でもね。がらっとそいつの評価が変わる事件が起こる。君は腐っても勉強はそこそこできる。二年生の一学期中間、一年生とは打って変わって君は9位という順位を取る。一桁だよ。おめでとう。そんなときに君はSとこんな会話をするんだ。
「何位とったの?」
「9位だよ。」
「……次は負けないから。」
「えっ、あ…そう。あの…君の順位を聞いてもいいかな?」
「53位……」
「え…ああw俺も君に抜かれないよう精進するよ。」
おかしいと思わないw?俺とのランクが違いすぎるのに次は負けないからって。普通それ10位の人が言うセリフだよねって。そうなの。俺はその時Sのことすっげえ馬鹿にしてた。コイツ大丈夫w?ってね。それでもSはテストの度に俺に勝負してきた。そして俺は圧倒的な力の差を見せ続けた。一回、二回ボコれば諦めるだろ。そう思ってたんだ。でも。Sは腐らなかった。三年生の最後のテストまで、俺に勝負を挑み続けた。そんなSがだんだん眩しく見えて来たんだ。中学受験に失敗して、腐って。中一のテストは投げやりで済ませた自分にとって。一生懸命手を伸ばし続けるSがすごく眩しく見えた。そしてそんなSの姿が、腐った俺の態度と生活を変えさせてくれた。俺も手を伸ばし続けたい。これ以上腐ってられないってね。初め大っ嫌いだったSは、いまでは一番好きな親友になっているよ。
二人目はそうだね。Kとでもしようか。俺が尊敬する男だ。中三で同じクラスになる。すごく論理的な人だった。切り替えのできる人だった。そして強かった。
目標を明確に持って、タスクをこなしていく。そんな彼はやっぱりK高校に行ったよ。我らの市の最高峰だ。流石だね。知識に対してとても貪欲で、ふとみたらいつでもどこでも勉強しているような。それでいて文化祭や体育祭は全力で楽しんでいた。とてもかっこよかった。こんなに充実した学校生活を送っているなんて。充実しているかどうかは本人にしかわからないものだろうけど、そうやって思わせるほどのものがあった。君も俺なんだ。わかるだろ?憧れのものや人は超えたくなる。俺はそういう人間だろ?Kは俺に火をつけてくれた。この人を超えたい。そういう強い思いをKはくれたんだ。
最後、三人目は君もよく知っている人だ。今も仲良くしてるんじゃない?見当ついたかい?その人とは中二で再会する。Mとでもしておこうか。自転車に乗ってるときに偶然会うんだよ。11月ぐらいだったかな。すっごくかわいいやつでさ。頼ってくれて、応援してくれて。お互いに相談して泣いたり、笑ったり。いてくれるだけで心が楽になるような人。中一、中二の半ばまで灰色だった中学校生活に色をくれた。その人とは人生最強で最高な相棒になる。嫌なことでも相棒が応援してくれてるから、相棒が喜ぶかなって動けるようになる。本当に心の拠り所になってくれた。全く同じ日に一緒にTwitterを始めてさ。そこでも沢山の嬉しい言葉をくれる。そうやって過ごす日々が本当に幸せなんだよ。君が三年後に経験する高校受験でも沢山支えてくれた。まるで自分のことの様に応援してくれた。
受験の話がでたね。これを一番話したかったんだ。今ふさぎ込んでる君の前で悪いが、俺は今すごく幸せなんだ。すごい冒険だったけど、O高校に合格できた。我らの県の最高峰。未来の君は憧れのKを超えることができたんだ。今の腐ってる君が、県の最高峰に合格できたのは何でだと思う?今幸せだって胸を張って言えるのは何でだと思う?そう。
Sが腐っていた俺を救ってくれたから。
Kが憧れの存在となって火をつけてくれたから。
そしてMがずっとずっと心の支えになってくれたから。
親に罰せられる。地獄の様な日々。そんなもんが起こるって怖くて震えていた地元の中学校生活で出会った三人とその思い出。それが今の俺の幸せを作ってくれた。
嫌だよね。あそこの中学校に行くのが怖いよね。親に何されるか分かんないんだもん。でもそれを差し置いても余りある大切なことが手に入る。だからそんなに悲観しないでくれ。T海中にいってたら、こんな素晴らしい三人には出会えなかったんだ。一生の親友も、憧れも、相棒も出来なかった。だからいいんだよ。君は胸を張って地元の中学校に行けば。
さあ。もう時間だ。最後にこれを伝えたい。昔の自分に言うにはちょっと恥ずかしいけど。
頑張ってくれてありがとう。苦しんでくれてありがとう。諦めないでいてくれてありがとう。未来の俺を信じてくれてありがとう。おかげで今、幸せだよ。
僧侶uyu(M.O)
拝啓 お先真っ暗な僕へ 僧侶uyu @uyu607
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