いいわけ祭りは賑やかに

沢田和早

いいわけ祭りは賑やかに

 とある地方のとある村には今でも奇妙な祭りが残っている。

 いいわけ祭りだ。

 それは米の収穫が一段落した秋ごろに行われる。

 祭りの内容は祭りとは思えないほど地味だ。とれたての新米を村人みんなでいただくだけである。


 ただし米の食べ方に特徴がある。二種類の飯を作るのだ。米を蒸して作る強飯こわいい(一般にはおこわと言われている)と米を炊いて作る姫飯ひめいい(普通に食べられているご飯)だ。

 村人は強飯派と姫飯派に分かれ、どちらの飯が優れているか論争を繰り広げるのである。いいける祭りなので飯分いいわけ祭りと名付けられた、と言い伝えられているが真偽のほどは定かではない。


「だって強飯のほうが歯ごたえがあるだろ、はぐはぐ」

「だって姫飯のほうが消化に良さそうだろ、もぐもぐ」


 こんな感じで言い合いは続いていく。

 ここで重要なのは理由の冒頭には必ず「だって」を付けなければならないことだ。なぜなら「言い訳がましく理由を述べなければならない」と決められているからである。したがって単純に、


「強飯は歯ごたえがあるので良い」


 などと言おうものなら祭り参加者から大ブーイングが巻き起こり、罰として強飯と姫飯を混合した強姫飯を丼一杯分食べさせられることになる。

 酒を飲み過ぎて酔っぱらった村人がよくこの過ちを犯して丼飯を食べさせられたりもするが、丼一杯分程度ではたいした罰にもならないので、ここ数年、罰の丼は二杯にすべきではないかという議論が村会議員の間でさかんに行われている。


「今年のいいわけ横綱は強飯派の高校生ツヨシ君です!」

「ごっつあんです!」


 そして祭りの最後には、最も優れた言い訳がましい理由を述べた参加者に「いいわけ横綱」の称号と新米五十キログラムが贈呈される。今年の最優秀に輝いたツヨシ君の言い訳がましい理由は、


「だって遅刻するくらい強飯が美味しいんだもん!」


 であった。ちなみにツヨシ君は遅刻の常習犯である。

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