いいわけで隠すもの

砂漠の使徒

ちょっとしたイレギュラー

「ただい……」


「もうっ! なんでこんなに遅いの!」


 私の彼は珍しく遅く帰って来た。

 いつもは夕暮れどきに帰ってくるのに、今日はもう真っ暗だ。


「ちょっと仕事でやらなきゃいけないことがあってさ……」


 苦笑いを浮かべて、申し訳なさそうに告げる彼。


「ウソ!」


「え?」


 そんな見え透いたウソ、すぐわかっちゃうんだから。


「だって、私が職場に迎えに行ったらもう居なかったじゃん!」


「あー……」


 心配した私が彼の職場に迎えに行くと、そこにはもう彼の姿はなかった。

 それに、同僚の人はもう帰ったとも言っていたし。


「なにを隠してるの!?」


 隠しごとなんて許さないんだから!


「いや、えーと……これはシャロールのためを想って……」


 しどろもどろに言葉を重ねていく彼。


「私のこと想ってるなら、いつも通り帰ってきてよ!」


 そんな言い訳聞きたくない!


「う……」


 追い詰められた彼は苦しそうに顔をひきつらせた。


「もういい!!! 佐藤のバカ!!!」


 なんにもしゃべらずに黙ったままの彼を見ていると、どうしようもない気持ちになった。

 私は寝室に走って、そのままベッドにもぐりこむ。


「バカ……バカ……」


 真っ暗な中、呟く度に涙が溢れてくる。


「……」


 いつの間にか私は寝てしまった。


――――――――――


「シャロール……シャロール……」


 朝。

 優しい声で起こされる。


「ん……?」


 目を開けると、ベッドの側に彼が立っていた。


「おはよう。昨日はごめんよ」


「おはよう。昨日? ……あ。ふん!」


 そうだった。

 昨日は佐藤に怒って、そのまま寝てしまったんだ。

 思い出すと、また涙がにじんできた。


「これ、タオル。顔を拭いて」


「……ありがと」


 私は涙で腫れてしまった顔を丁寧に拭く。

 手渡されたタオルはほんのり暖かかった。


「僕、シャロールに渡したいものがあってさ」


 佐藤はまじめな顔でそう言った。


「……なに?」


 こんなときに渡さなきゃいけないものなの?


「これさ」


 佐藤は片手に収まるくらいの小さな箱を差し出した。

 それはいつか見た箱と似ていて、もしかして中身も。

 と思っていると、彼は箱を開く。


「わぁ……」


 予想通り、中にはきれいな指輪が入っていた。


「これ……」


「今日は僕と君の結婚記念日だろ?」


 佐藤はすごく優しく微笑んだ。


「だから、二度目の結婚指輪だよ」


「あ……」


 すっかり忘れちゃってた。

 今日は結婚記念日だ!


「ありがとう、佐藤!」


 私はさっそく指輪をはめてみる。

 キラキラ輝くリングが、二つに増えた。


「昨日は指輪を選んでいたら遅くなって……」


 せっかくかっこよかった愛しの彼は、昨晩みたいにまた困り顔に戻ってしまった。


「もうっ! 言い訳しないで!!」


「……」


「それより、早くお祝いしよっ!」


 私達に暗いムードは似合わないもん。

 それに、彼にはいつも笑っていてほしい。


「うん、そうだね。実はもう用意してるんだ」


「やったーー!!」


 来年は言い訳しないでね、佐藤。

 私はごちそうを食べながら、心の中で彼に呼びかけたのだった。


(了)

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いいわけで隠すもの 砂漠の使徒 @461kuma

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