三
ああ、だれか、わたくしの愚を責めてください。
わたくしは、愛してしまったのです。あのひとの、人間らしさを。機械のような完全さのない、――その人間というものの美徳を体現している、あのひとのことを、愛さずにはいられなかったのです。
あのひとの欠点を、自らの手で修繕したいと望みながら、そんなことはできずに、いじらしくなってしまうのが、なんとも心地がよかったのです。先の見えないほどに輝く光のなかで、まどろんでいるかのように。
もちろん、わたくしも人間です。過ちを犯すのです。そして犯した過ちのために苦しむのです。
あのひとが、突然の悲劇ではなく、自然の運命によって天に昇れるようにと、この王宮にいるどの臣下よりも献身的な働きをしたということなんて、なんの
なぜなら、あのひとの知らぬところで、むごたらしい策を臣下に与えて
人は機械ではありません。みなおしなべて不完全さを持ち合わせています。
あのひとのためを想い、密約を交わした仕立て屋の彼に魅かれてしまったこともまた、自然なことではありませんか。人は、ひとりを愛し続けることなどできないのです。こころは変わりゆくものです。設計された通りに動き続ける機械ではないのですから。
この扉の向こうに、わたくしの愛していたひとがいます。
わたくしは、服の裏に隠したこの小刀で、人間の不完全さがもたらす不条理な運命を、あのひとに与えようとしているのです。
あのひとはいま、うっとりと月夜を眺めていることでしょう。もう二度と、朝を迎えることができないなどと考えることもないままに。
どうぞ、わたくしの愚を責めてください。…………
悲劇的な、宿命的な、人間的な 紫鳥コウ @Smilitary
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます