ぼくは、見たままのことを言っただけなのに、――周りで認めない人がいないくらいに正直な人間なのに、なぜあのような仕打ちを受けなければならないのだ?


 あの日、ベッドの上ですすり泣いていた母の鼻水の跡は、どのシミであっただろうか。このシミか? いや、これは父の血のあとだ。


 鍵穴が潰れたドアが開かないようにと、ガタガタと揺れる傷だらけの机と椅子を一カ所に寄せた祖父の蒼白とした顔は、二度と温かい色を取り戻すことはなかった。往来から足音がするたびに、飛び上がって叫んでいた兄は、どこへ連れ去られて行ったのだろう。


 あの残虐非道な王は、ぼくたちが被った惨劇を、――王宮のベランダから隠れ切った影のなかにあるこの悲劇を、哄笑こうしょうしているに違いない。


 とっくに鮮やかな色を失った野菜を買い求めようと、我先にと市場へ押し寄せる人々の苦しみも、嘲笑しているのだろう。


 ああ! ぼくはもう、台所の下に隠してある銃を持つことさえできない怨霊だ!


 ぼくたちの英雄だと信じたあの仕立て屋たちが、無惨悲惨を好むあの王の味方であると知ったときの、ぼくたちの屈辱を知れ! あの一事はすべて、狡猾な計略だったのだ!


 ああ、あのパン屋の前で倒れているのは、恋しく思っていた、お姉さんではないか?


 ああ、ぼくは、暗澹あんたんたる地上に縛り付けられたまま、叶うはずのない復讐の想いを寂しく燃やしているしかないのだ。…………

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