なれそめ

惣山沙樹

なれそめ

 初めて見たときから、とても綺麗な女の子だと思っていた。

 すっと通った鼻筋に、大きな瞳。ピンクベージュのヘアカラーの髪は、すとんと肩甲骨までおろされていた。それが真由美という女の子だった。

 サークルの飲み会が終わり、二次会のボウリングに皆が連れ立って行く頃、真由美はわたしに耳打ちをした。


「ねえ、二人で抜け出さない?」


 わたしがそのとき、どんな受け答えをしたのかは覚えていない。ただ、結果的にわたしと真由美はショットバーで酒を酌み交わしていた。


「綾子って、恋人いるの?」


 いきなり、そんな話題だ。


「ううん、いないよ。真由美は?」

「あたしもいない」

「へえ、そんなに可愛いのにね?」

「綾子こそ」


 ジントニックの香りが鼻を刺した。わたしは真由美に気付かれないよう、腕時計を見ながら彼女と話した。


「あっ……もう終電無いね」


 スマホを見て、真由美が言った。


「そうだね」


 わたしは終電のことなど分かっていた。けれど、言い出さなかった。とくん、と胸が鳴った。どれもこれも、今夜は酔いのせいにしてしまえるなら。


「ねえ真由美。どこか、泊まれるところ、行こうか?」


 それがわたしたちの始まりだった。




***




「綾子、何見てるの?」

「昔の写真」


 すっかりわたしの「彼女」になった真由美が、後ろから抱き締めてくる。わたしはうっとりと身体を預ける。

 終電が無くなった、なんて、とんだ言い訳。真由美もわたしのことを求めてくれていた。それが分かって、あの日どんなに嬉しかったことか。


「あっ、ここのカフェ良かったよね。また綾子と行きたい」

「うん、行こう」


 この数ヶ月で、真由美との思い出は着実に積み重なっていった。これからもっと増やしたい。今はもう言い訳は要らない。一緒に居たい。それだけで理由になるのだから。 


「大好きだよ、綾子」

「……わたしも」


 わたしたちは唇を重ねた。真由美の髪からは、シトラスの香りがしていた。

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なれそめ 惣山沙樹 @saki-souyama

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