KAC2023 ラスト第7回お題「いいわけ」
水曜
第1話
遅刻したとき。
あなたなら、どんな言い訳をするだろうか。
俺の名はオデュッセウス。
トロイアの木馬作戦を考案し、十年以上続いたトロイア戦争を終結に導いた。そして、意気揚々と故郷に帰ろうとしたら、あら大変。
船がいきなり暴風に会い漂流し、生き抜くためロータスという植物を食べたら心神喪失状態になり、洞窟に迷い込んだら一つ目巨人に襲われ、もらった不思議な風袋をあやまって開けたら船が逆走、魔女キルケの島に三日滞在したら外の世界では一年半経っており、セイレーン達の人を惑わす歌声により船が沈没しかけ、一日に三回海水を吸い込み次に三回凄まじい勢いで水を吐き出すカリュブディスの渦を潜り抜け、六つの頭を持ち十二本の足で歩く怪物スキュラと対峙し、ニンフであるカリュプソーと過ごし、パイアケス島の王女ナウシカの協力を得て……ようやく我が家に戻ることができたのだ。
遅刻したとき。
あなたなら、どんな言い訳をするだろうか。
帰国が大幅に遅れた俺は、カンカンに怒る妻に必死になって上記の言い訳を並べた。
「だからだな、ペネロペイアよ。俺も色々と大変だったんだ」
「オデュッセウス、王であるあなたが居ない間にこの国がどれほど乱れたか分かっているのですか!」
「そ、それは悪かったと思っている。だがな、決して遅れたくて遅れたわけじゃないことだけは分かって欲しい。仕方なかったんだ」
「どうだか。あなたが帰りに寄ったところは全て有名な観光名所ではないですか!」
「う」
「しかも、キルケにカリュプソーにナウシカと女性の名前がちょいちょい出てきましたね!」
「いや待て、ナウシカ姫とは何もなかったのだ」
「ナウシカ姫とはということは、つまり他の女性とは何かあったということですね!」
「あ、つい口が滑った」
「オデュッセウス!」
怒り狂う妻に更に言い訳を続ける。
この言い訳が一大叙事詩『オデュッセイア』の原型である。
KAC2023 ラスト第7回お題「いいわけ」 水曜 @MARUDOKA
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