ほしいのは独創性なんだ

坂本 光陽

ほしいのは独創性なんだ


 学生の個性が失われて久しい。


 画一化がすすんでおり、話していても全く面白くない。こちらに気を使いすぎるのか、他人に合わせすぎるのか、根本的に独創性が欠けている。


 今、面接中の4人も、そうである。これといった特徴がなく、同じような口調で、同じようなトーンで話しやがる。他人を出し抜いてでも目立ってやろうという気がないのか?


 そこで、こんな質問を投げかけてみた。

「君が大事な商談に遅れてしまったとする。その時、どんないいわけを用意するか、答えてほしい」

「それは本当の理由ではなくてもいいということですか?」と、Aが訊いてきた。


「そうだ。できるだけ、独創的な答えを聞かせてくれ」

「そうですね。迷子になった女の子を見かけて、その子を交番にとどけていたので、遅れてしまいました、と言います」


 その答えのどこに独創性があるのか? そもそも質問に質問で返した時点でアウトである。


「交通事故現場に出くわして、救急車の到着を待っていたので、遅れてしまいました」

 BのスタンスはAと変わらない。いいことをしたので遅刻を許してほしい、という思惑が気持ち悪い。繰り返しになるが、問われているのは独創性なのだ。


「人身事故の影響で乗っていた列車が止まってしまい、遅れてしまいました」

 Cの答えも50点だ。やはり独創性が足りない。せめて、列車の窓から抜けだし線路上を走って駆けついた、程度のことは言ってほしい。


「最後の君はどうだ?」

 Dは笑みを浮かべながら、

「実は昨晩、友人とケンカになり、殺してしまいました。風呂場に運び込んで、バラバラにしたのですが、思いのほか手間取ってしまい、遅刻をすることになりました」


 さすがの俺も、この答えには絶句した。独創性はあるが、常識とモラルが欠如している。


 後で耳にしたのだが、Dは実際に本日遅刻をしたらしい。彼と同じ大学の学生が面接を欠席しているのだが、まさか……。



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