告白のいいわけは

シンシア

告白のいいわけは

「付き合ってください!」

 おそらくこれまでの人生、全てを賭けたであろう緊張と期待の音がする。

 私は今そんな一瞬を盗み見ている。告白の瞬間に立ち会うなんて大抵は当事者でしかありえない事だと思うが、私は今草の茂みからその瞬間を眺めている。もしこの事実を彼が知っていたら彼女に脈がないことは疎か期待の音はこんなにしないだろう。だから私は絶対にバレてはいけないと息を潜めている。これ以上彼を傷つけない為だ。


「ごめんなさい、そういうのはちょっとお断りしているの。」

 鈴のような声色で彼女はそう答えた。

 彼は落胆してトボトボと肩を落としてその場から立ち去っていく。


「お疲れ様。また盛大に振ったねぇ。」

 私は彼が立ち去ったのをしっかり確認すると茂みから姿を表して彼女にそう告げた。

「もーう、また意地悪なこと言うよね。」

「意地悪なのはどっちよ。振ったあと何されるか分からないから見ててなんてさ。」

 私は告白に対する不誠実な対応についてを指摘すると、だってよと言わんばかりに彼女は頰を膨らませた。

「じゃあさマヤは私が誰かに盗られてもいいわけ?」

「そんな物みたいにさぁ。」

「そうじゃなくてさ......。」

「あ、ショーコこれはそういう訳じゃ。」

 私は甘えてしまっている。友達だから、女同士だから。そんな曖昧な感情で彼女と接してしまっている。そこに恋愛感情があるとはっきり伝えた事はないが日常的に彼女に依存してしまっているのは事実だ。先程は彼女に不誠実を訴えたが私の方が不誠実ではないか。

「ごめんね。ショーコ。誰かに盗られるのなんか嫌だ。側にいて欲しいよ。」

 私は肖子しょうこの手を握ってそう伝えた。

「......仕方ないなー。許してあげるよ。」


 もし男だったら私は彼のように告白出来たのだろうか。こんなにも彼女と仲良くなれたのだろうか。私は女だからといいわけをして自分の気持ちに気付かないフリをする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

告白のいいわけは シンシア @syndy_ataru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ