メルクーアと空飛ぶ大砲<ルフトカノーネン> 召喚理由〈いいわけ〉

土田一八

第1話 召喚した理由<いいわけ>

 私は空中魔導海賊船の討伐に成功した。それだけでなく追加任務である金貨500万枚の回収にも成功した。私はキルシュブリューテを発進元の草地に無事着陸した。エンジンを停止させる。

「はぁぁ。疲れたー………」

 俺は安全ベルトを外すと、途端に脱力して虚無感に襲われて背もたれに寄りかかる。息は荒く、心臓がまだドキドキ高鳴りして身体は熱を帯びて熱く血管は脈をどくどく、ばくばくと速いテンポで打っている。前に、こんなに疲労感を感じたのはいつの頃か。思い出せん。この方生まれて初めて人間同士の命のやりとりをしたのだ。躁鬱の躁の状態、つまりの気分だ。変な高揚感が身体にまとわりついている。そんな感じだ。これで罪悪感を感じて気分が酷く落ち込むと鬱の状態に陥る訳だと心の中で、いや、頭の中で理解する。暫く呆然としていると人の気配がした。

「あらあら。魂が口から抜け出そうよ」

 そしてキルシュブリューテによじ登ってフィレットの上に立って 操縦席を覗き込んで言った。どこか聞き覚えのある声だった。

「あ?」

 俺はイラっとしながら視線を向ける。金髪の少女が2人、俺を見ていた。



「ウフフ。貴女、大丈夫?」

 背の高い方の少女が話しかけてきた。

「ああ、…もうちょっと静かにしてもらえれば、次第に落ち着く」

 イラついていた俺はちょっと嫌味を付け足した。

「それは失礼…」

 背の高い少女は恐縮する。

「お水、飲めますか?」

 もう1人、カワイイ娘が質問した。

「ああ。頼む…」

 その娘は水筒の水をコップに注いで俺に手渡してくれた。俺は受け取ると少しずつゆっくりと飲む。

「あー、生き返るー!」

 まず、普通なら水だけでこういうセリフは言った事はなかった。お茶とビールではそう言った事はあったけれど。これで頭がしっかりして来た。

「ふう」

 落ち着いた所でコップをカワイイ娘に返す。

「ありがと」

「あ、はい」

「で、俺の事は知っているみたいだな?」

 俺は2人の少女に質問してみる。


 びくうぅ⁉


 意表を突かれたのか2人の少女は驚く。

「そうでなきゃ、ここに来ないだろう?」

「そ、そうね…」

「だが、俺はあんたらの事は知らない。自己紹介してもらおうか」

「分かったわ」

 自己紹介は背の高い少女から始まった。

「オッホン。わたくしは神聖帝国リンネルハイムシュタイン選帝侯リンネルハイムシュタイン王国第一王女エリーザベト フォン リンネルハイムシュタイン。異世界人。此度の働き、期待に違わず実に見事であった。褒めて遣わす」

 コイツ、王女だったのか。道理で上品ぶっている慇懃無礼なヤツだと思っていたが、上から目線な訳も納得できる。態度もデカいし、電話をかけてきたのもコイツだろう。

「さっき、口汚い電話をかけてきたのはあんただな。もしかして、クソまみれのケツの穴で喋ってるのか王女!」

「なっ!」

 エリーザベトはムッとした表情でお尻を両手で抑える。

「フン。次」

「わ、私はユリア クリストダーターと申します…錬金術師です」

 カワイイ娘は少しオドオドした様子で簡単な自己紹介をしてくれた。錬金術師かこいつが俺を召喚したのか?

「おい、錬金術師!俺を召喚したのはお前か?」

「いいえ。召喚したのはリーゼちゃんです」

「ちょっ、ユリア!」

 エリーザベトは慌てて止めに入る。

「あっ!」

 ユリアは慌てて口を両手で隠す。もう遅いけど。

「ふーん。何で俺を召喚したのかなぁ?」

「ちょっと、ここでは…」

「事情を知っているようだな。理由を正直に話さんと金貨は渡せんぞ?」

「うっ!」

 エリーザベトは絶句する。

「リーゼちゃん…」

 ユリアが話すように促す。

「はぁ。分かったわよ…」

 エリーザベトは観念した様だ。

「魔法学校の余興ゲームよ。試験休み明けのね…」

「余興だと?ヒマ人だな?余興の為に俺を異世界からわざわざ呼び出して、その上俺の身体はともかく持ち物もアレコレ弄り回して、空中魔導海賊を討伐させたのか?」

「しょうがないでしょう。こういうの、貴女にはできないでしょうって言われたら!たかがゲームと雖も、王族同士の見栄というか意地の張り合いなんかではすまないわ!王家…いえ、父上どころかその国や国民までずっと馬鹿にされるのよ!」

 エリーザベトは感情を込めて説明する。

「マウント合戦かよ…クソどうでもいい醜い争いも、神聖帝国選帝侯の王族様レベルともなると、随分と手の込んだスケールの桁が違うヤバい事を平気でできるんだなぁ。大したもんだ」

 俺は呆れて嫌味を言ってやる。

「名誉の問題です!」

「挑発されてそれに乗っただけだろう。それもあんたらは手を汚さず、他人に汚れ仕事をさせる。何が名誉か!」

「うぐぅ…」

「…安いな。さぞかし戦争しまっくって兵隊がバタバタ倒れ、民が略奪されたりしても何とも思わないんだろうな」

「そんな訳がないでしょう!」

 エリーザベトは感情を爆発させる。

「フン。ゲームのプレイヤー気取りかよ。…駒って事は他にも異世界から人を召喚したのか?」

「ええ」

「マジかよ」

「………」

 エリーザベトは押し黙ってしまった。

「俺が攻撃を開始した時、誰もいなかったが?」

「貴女が最後の駒だったの」

「おい。俺がやられたらどうする気だったんだ?」

「海賊の勝利。さらに金貨500万枚を海賊に支払ってゲームは終了」

「その金貨って国のお金だよな?さすがに」

「………」

 エリーザベトは喋らなかった。否定も肯定もしなかった。

「大丈夫なのか?」

 エリーザベトは首を横に振った。

「だからっ、極秘のうちに戻さないといけないんです」

 ユリアが話す。

「極秘って…あれだけド派手な空中戦をやれば、すぐバレると思うぞ?」

「………」

 エリーザベトの顔から血の気が無くなる。

「アハハ」

 ユリアは笑ってごまかす。

「…ま、取り敢えず回収した金貨500万枚はどうするんだ?」

「それはそれぞれに持ち主がいるから後で返してもらうわね」

「そうかい」

 間が開く。

「で、ところで、何で俺を女にしたのか?しかも、あんたらとあんまり年恰好が似てるんだが?」

「それは、ユリアがカワイイ女の子がいいって言うから…」

「だって、エリーザベトがおじさんは嫌だって言うから…」

 エリーザベトとユリアはギャアギャア言い合いを始めてしまった。


「はぁぁ」


 やはり、俺が危惧した通り、事がそれぞれのご両親や政府にはもちろん学校にもバレてしまいそれぞれから大目玉を喰ったそうな。この事件の後始末を検討する為だけに選帝侯会議が急遽開催されたのだから。その議題には俺の処遇も含まれており、その結果、俺は帝国騎士に任命され、デーンブルク魔法学校の生徒にも採用されてしまった。

「今日からは同じ学生ですわね」

「うげぇ」


                               おわり

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