辰田先生いいわけRTA Part1/?

清水らくは

辰田先生いいわけRTA Part1/?

「先生ー、本屋の前で空飛ぶ車が事故ってて遅れましたー」

「んー? 空飛ぶ車? うん、そうか。大変だったな」

 遅れて教室に入ってきた生徒が、着席するなり首をひねった。

「3秒過ぎてる……だめだなあ」



「すみませーん、ぬいぐるみに羽交い絞めにされてましたー」

「ぬいぐるみ? 生きてたっけ? あー、映画で見たな。生きてるのもあるか。わかった」

 遅れて教室に入ってきた生徒は、頭を抱えながら着席した。

「5秒越え! ランク入りもできないや」



 辰田先生は優しい。遅刻した生徒のことを怒ったりしないし、いいわけが面白ければ笑って許してくれる。そのため生徒たちの中で、「どれだけ早く許されるか」ということが競われるようになったのである。



「先生、す、すみません。アスファルトがぐちゃぐちゃになってて通れませんでした!」

「んー、暑いとなるかもなー。いや、今三月だな。でも、なんかでぐちゃぐちゃになってたのかな? いいぞ、よく来れたな」

 辰田先生は生徒の頭を撫でいた。生徒は計測が借りに向かって、声を出さずに「何秒?」と尋ねる。計測係の生徒は、指を5本立てた。

「くそ、最初で許したと思ったのに」

「ん、どうした?」

「何でもありませーん」

 生徒は口を尖らせたまま席に着いた。

「決まったと思ったけどなあ」



「散歩している老人の群れに巻き込まれましたの」

「あー、マッチョに追いかけられて」

「7の付く日は腹痛で……」

 生徒たちは様々な言い訳で挑んだが、記録更新とはならなかった。そんな中、ついに絶対王者の巳山が遅刻して教室に入ってきた。

「遅れました。あの……母親の浮気がばれて、父親が家を飛び出したりして……いろいろあって全然寝てないんです。すみません」

「わかった」

 辰巳先生の返答するあまりの速さに、教室がざわついた。計測係は、ストップウォッチを見て驚愕する。「0.45秒! 1秒を大幅に切ったぞ」

「何がです」

 しかし、巳山は席に着かず辰巳先生をにらんでいた。

「こんなことになってしまって、本当にすまなかったと思っている。お前のお母さんには、二度と会わないと約束する」

「うちの家庭はもうとっくに壊れちゃったんです! 今後会わないとかそういう問題じゃないんです!」

「いいわけになるが、誘ってきたのはお前の母さんの方で……」

 辰巳先生のいいわけRTAが、始まっていた。ちなみに前回の記録は約三年前に計測された「7か月と7日、1時間17分27秒37」である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

辰田先生いいわけRTA Part1/? 清水らくは @shimizurakuha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ