麗しき女隊長の苦悩
香久乃このみ
悋気
説明させてくれ。
確かに私は誰にも彼にもいい顔しているように見えるだろう。
隊長という名の娼婦だと言われれば、返す言葉もない。
だが、隊の士気を上げるために必要なことなのだ。
こう言っては何だが、私は周囲から好意を抱かれやすい。
生まれ、能力、見た目、振る舞い、全てが不思議と人心を掴んでしまうらしい。
だから、私が褒め、認め、評価し、励ましさえすれば、比較的簡単に隊員のやる気を引き出すことができるのだ。
ただこの口先だけで、微笑むだけで。金銭的なコストもかからない。
だが裏を返せば、私の寵を得られていないと感じた者からは、敵意すら抱かれることもある。逆恨みというものだ。
この見た目で生まれた時から、幾度も味わった理不尽だ。一方的に好意を抱かれ、拒絶すれば憎悪をぶつけられる。可愛さ余って憎さ百倍と言うものだろうか。
私は、敵を作らぬために、誰にも公平に愛を注いでいる振りをせねばならなかった。特に隊長となった今、なおさらだ。
獅子身中の虫を生み出すわけにはいかんのだ。
この戦い、負けるわけにはいかん。
そのためであれば、私は自身の持つ全てを利用してやろう。
皆と生きて戻るために、私はあえて全員に気のあるような振りをしてやる。
踏み込み過ぎず、距離を置き過ぎぬよう気を配りながら。
それは真に恋人であるお前にとって、さぞかし面白くないことであろうな。
だが、信じてくれ。
私はお前以外の者に思慕の情を抱くことはない。
この身にみだりがましき指先を触れさせたことは、一度たりともない。
一人の男として愛しているのは、お前だけだ。
あぁ、良かった。信じてくれるのだな。
ありがとう、愛しい人。
お前に嫌われたら、私には生きて帰る意味がなくなってしまう。
勝って、生きて故郷へ戻ろう。
一日も早く、お前だけの私になりたい。
周囲の視線を恐れることなく、その身にすがりつき口づけたい。
――愛しているぞ。
了
麗しき女隊長の苦悩 香久乃このみ @kakunoko
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