いいわけの天才

浅川さん

いいわけの天才

「それっていいわけですよね!?」

 僕の目の前に座ったババアが唾を飛ばしながら叫んだ。

「いや、いいわけではないですよ。ちゃんと証拠も提示しています」

「じゃあ、あなたは悪くないって言うの!?」

「左様でございます」

「じゃあ、誰が悪いのよ!」

「誰も悪くはありません。強いて言えば運が悪いのです」

「誤魔化さないでよ!」

 ふーむ、こまったな。これでは終わりがない。

「では、こうしましょう。私に落ち度があるなら、それを具体的に指摘してみてください」

 僕がそう提案すると、ババアは少し考えた後こう言った。

「あなたがこんなものを売ったからよ!」

「私はレジを打っただけにすぎません。商品の良し悪しについて言われるのであれば、それをレジまで運ばれたのはあなたです」

 はい論破。

「………じゃあ、売り場に並べるのが悪いのよ!」

「私は品出し担当ではありませんし、やはり手に取ったのはあなたです。私ではありません」

 はい論破。

「こんな粗悪品仕入れるのが悪いのよ!」

「仕入れ担当は私ではありませんし、仮にそれが粗悪品だったとしても、それをレジまで運ばれたのはあなたです」

 はい論破。

「じゃあ、あなたはなんの担当なのよ!」

「レジ打ちです」

 あと、秘密だけどクレーム対応(通称サンドバッグ)担当でもある。

「じゃあ、もっと偉い人だしなさいよ!」

「私が店長です」

「………店長がレジ打ちしてるの?」

「人手不足なもので………」

 ババアの目つきが怒りから同情に変わり少し和らぐ。

「うーん、あなたも大変なんでしょうけど、私もとっても困っているの」

「ええ、わかりますよ」

 そりゃ、せっかく孫のために買ったおもちゃが菓子粉砕機グ○メスパイザーだったら、それは悲劇だ。

「確かにそのおもちゃはイカレポンチです」

「じゃあ……!」

「しかし!」

 ババアが口をはさもうとするので、それを力強く遮る。

「しかしその商品を作ったメーカー、工場、ましてや小売に罪は無いのです!強いて言えば元凶はこの商品を企画立案した人です!でも、その誰かだって最初のきっかけは子供たちに喜んでほしい!作品を盛り上げたい!そういう想いがあったはずなんです!」

「………!」

「だから、誰かを恨むのはやめましょう。お孫さんも喜びはしません」

「そ、そうね。でも、これはどうすれば………?」

「………SNSにアップしたらバズるかもしれませんよ?」


 その後、ババアは釈然としない感じで帰っていった。

「いやぁ、流石店長。完璧な対応でしたね」

 アルバイトのJKがババアの後ろ姿を見送りながら言った。

「そうかなぁ」

 なんとかやり過ごしたが、今日のクレームは強敵だった。

「そうですよ。いいわけの天才です」

「いや、いいわけじゃないよ。だって僕は悪くないもの。あんなもの買うやつが悪い」

「でも、仕入れたの本当は店長ですよね。嘘は良くないですよー?」

「……………………はい」


 完



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いいわけの天才 浅川さん @asakawa3

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