そんなことより
闇谷 紅
手紙
「はぁ」
言いたいことだけ言って行きやがって、そんな乱暴な言葉は流石に僕の口からは出ないが、ため息をこぼしても胸の中にもやもやとしたものが残っていた。
「『いいわけなんてききたくない』か」
こう、安物の恋愛ドラマか何かに出てきそうなセリフだななんてことを思いつつ、リビングの壁を見る。ピンでとめられたカレンダーにいくつかの印。二人で出かける予定の印もそこには含まれてて。
「はぁ」
もう一度ため息を漏らして手紙の文面に目を落とす。
「この一文だけ何故全部平仮名なんだ?」
どうでもいいことがつい口をついて出る。ぶっちゃけ今しなければならないのは、そんなことを考えることじゃない。手紙を残していった彼女を追いかけて探すか、スマホに電話をかけるか、もしくは。
「言い訳なんて聞きたくないんじゃ、連絡がついてもかえって態度を硬化させそうにも思うけどな」
どうしてこんなことになってしまったのか。もう一度手紙の文面を見ると、余白に可愛らしくデフォルメされた動物が踊っていた。
「いや、うん」
紙自体に印刷されているってモノではなく、彼女の手書きのイラストだ。楽し気なくまさんがうさぎさんときゃっきゃ笑いながら踊っている。
「文面とのギャップがなぁ」
というか、このイラストが手紙の内容にそぐわなすぎて、イラストの方が気になってしまう。
「いや、ホントどういうことなんだ、これ?!」
イラストだけ先に描いていたのだろうか。だとしても文面を書くときに気づきそうなものだ。
「いや、僕って本当に何なんだろうな」
彼女を引き留めたいというかもう一度話したい理由の半分以上が「このイラストを描いた意味が知りたいから」だなんて。
「エイプリルフール……は来月の頭だしな」
文章に見える強めの筆圧は、彼女が本当に怒っている証左だ。騙すためにそこまでするとも思いづらい。
「はぁ」
モヤモヤする。どうにもスッキリしない。
そんなことより 闇谷 紅 @yamitanikou
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