お酒はほどほどに【KAC20237・いいわけ】

カイ艦長

飲めない人もいるんです

「いいじゃねえか。今日くらい」

 部長がビール瓶を持って私のコップに注ごうとしている。

「いえ、私お酒が飲めないので……」

「酒っていってもビールだぞ。ビールは酒じゃない。ビールだ」

「しかしですね。アルコールが入っているのですから駄目なんです。私アルコール一滴でも強烈な頭痛に見舞われて、影響は翌日以降にも残るんです。だから明日のパフォーマンス維持のためにも、たとえビールであっても一滴も口にできないんです」

 コップを手で押さえながら、なんとか部長のビールを回避した。


「勝又さんつれないねえ。もう少しノリがよくないと、部内の団結が損なわれるじゃねえか」


「それではお聞きしますが、仮にここでアルコールを摂取して今から一週間部員が使い物にならなくなったら、部の生産効率は極端に落ちてしまいますよね。部内の団結のためにも、飲むわけにはまいりません」

 そういうと、素早くオレンジジュースをコップに注いでおく。他の飲み物が入っているときにビールを入れる愚か者はいない。


 世の中では炭酸で割って飲む『ビアボール』という商品が販売されているが、そういう面白ビールでも駄目なものは駄目なのだ。


「そんな言い訳していいわけ?」

 そう言いながら、部長は自らのコップにビールを注ごうとするが、女子社員が変わってビールを注いでいった。

「言い訳じゃありません。部の生産性を落とさないための配慮です」


「誰だよ、酒の飲めないやつを入社させたのは」

「私だよ、和田部長」

 不意に現れた年配の男性が声をかけた。この人、どこかで見たような……。


「三宅社長! どうしてこちらへ?」


「なに、経理部で打ち上げをやっていると聞いてね」

「そうですか。ビールをお注ぎいたしますね。誰か空きコップを頂戴」

「いや、私もアルコールは駄目なんだ。ひとりじゃ肩身が狭いから彼女を採用したんだ」


 それを聞いた和田部長の言い訳が延々と続いた。

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お酒はほどほどに【KAC20237・いいわけ】 カイ艦長 @sstmix

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