【KAC20237】言い訳をさせてください

十坂真黑

とある男女の会話

「まず初めに言い訳をさせてほしいんだけど」


「どうぞ」


「今日はお題を見て五分で書き始めたんだ。全くのノープランで」


「ふんふん」


「『いいわけ』って……平仮名なところが妙な想像力を掻き立てるし」


「あなた、何の話してるの?」


「なにって、今回のカクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップのお題だよ。僕が拙いながら皆勤賞を目指して毎回頭をひねっている、あれさ」


「……そんな話をするために今日、私を呼び出したわけ?」


「まさか! そんなはずないだろ」


「だったら、さっさと本題に入ったら?」


「えっと……だから僕が言いたい事は、今日は抜けるようないい天気だねってことで」


「そうね」


「花粉もたくさん飛んでるし、東京ではもう桜が開花したみたいだ。つまるところ、僕は重度の花粉症でコンディションは最悪。しかも窓の外には美しい桜並木。桜に気を取られてしまって、集中できなくてうまい文句が一個も浮かんでこないんだ」


「それは災難ね」


「あくびなんかしないで聞いてくれよ。君にそんな態度をとられると、僕は緊張で話が進まなくなってしまうんだ。ほら見てよ、こんなに手が震えている。君にすげなくされたからさ。きっと今日はもうだめだ。何をしてもうまくいかない」


「あなたっていつもそうね。先に言い訳しないと何一つ行動できない。そんなに免罪符が欲しいの? 玉砕するつもりで本気でぶち当たってみたら?」


「でも、もし本気でぶつかってダメだったら……」


「その時はその時じゃない」


「だったらその時、落ち込んでいる僕を君が慰めてくれるのかい?」


「はあ……もういいわ。私、帰る」


 女は椅子を引き、立ち上がった。


「ま、待って!」


 男は追いすがるように立ち上がる。その勢いで、ガタンと椅子が後ろに倒れた。


「僕と結婚してください」


「初めからそういえばよかったのよ」


 女は満足そうに微笑むと、男が差し出した結婚指輪を薬指にはめた。

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