Knowledge Activate Chaos

秋乃晃

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 モアは競馬場で買って帰ってきたマスコットキャラクターのぬいぐるみを気に入って、自分の横に置いて絵本の読み聞かせをしている。


 絵本は上野駅の本屋で購入したものだ。赤い魚たちの群れに、一匹だけいる黒い魚の物語。小学校低学年の教科書に載っていた気がする。なつかしい。あのころに戻りたいだとか、あの時代がよかったとはまったく思わないけど。


 競馬場での出来事は俺たちにとってはいい思い出だけど、あとの二人のうちひとりは「思い出したくないのん」と言うしもうひとりは「その話はやめよう」と嫌そうな顔をしてくる。まあ、不運をそこで使い切ったと思ったほうがいいんじゃねェの?


 モアが読み終わったぐらいのタイミングで、おばあさまはテレビをつけた。午後のロードショーが始まる頃合いだ。通販番組で「筋肉は世界を救う!」と題して、プロテインが紹介されている。


 飲むだけで筋肉がつけばいいのにな。


 いや、そんな即効性のあるようなプロテインが発売されたら、きっとオリンピックはぐちゃぐちゃか。飲んだか飲んでないか論争が勃発するだろう。


 そういえば昨日、モアが「散歩に行くぞ!」と言って真夜中に俺を外に連れ出した。吸血鬼の友人・朝霞鈴萄に会わせたかったらしい。朝霞鈴萄と言われただけでは誰だかさっぱりだったけど、会ったら見覚えのある子でびっくりした。こんな偶然もあるんだな。


 昼間はアイドル活動をしているから忙しいのだと言い訳されて、連絡先は教えてもらえなかった。吸血鬼だけど昼間に動けるタイプの吸血鬼なのかな。吸血鬼に詳しくないからよくわからん。モアはモアで、その言い訳を聞いて「真夜中お忍びデートだな!」と明後日の方向に解釈していた。


 俺から言えることとすれば、なんだろう、これからもこの宇宙人と仲良くしてあげてほしいってことぐらいか。俺は毎晩こんな時間に連れ出されたくないし。夜は寝させてほしい。

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Knowledge Activate Chaos 秋乃晃 @EM_Akino

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