AMIのいいわけ

チャーハン@カクヨムコン参加モード

いいわけ


「――っくそぉ、組織にどう言い訳すればいいんだ!」


 星空が空に輝いている午前三時。俺は高い声を口から出しつつ細い体躯を必死に動かしていた。逞しかった上腕二頭筋や三頭筋は華奢なか細い腕に、パンパンに膨れ上がっていた太ももは綺麗な細い脚に。そして強面系だった顔は、鏡で見れば将来アイドルと言われるような可愛らしい顔になっていた。


「こんな身体じゃ、俺がAMIだなんて言える訳がねぇ。こんな見た目で言ったら最悪の場合、組織から殺されるかもしれない」


 サイズの合わない革靴をパタパタと鳴らしつつ、だぼだぼのシャツとズボンを必死に動かす。ズボンの裾を踏めば自分の家から逃げることが難しくなる。


「くそぉ、マジでアンラッキーセブンだよ! 絶対許さねぇぞ、ヴェルックぅ!」

 

 俺は昨日ともに飲んでいたヴェルックに対して怒る言葉を吐き出した。しかし、声がどうにも可愛らしくなってしまい調子が出ない。それどころか、大人の時よりも歩幅が小さいためか全然速く走れなくなってしまった。


「これじゃ深夜の散歩だよ! 全然走れねぇじゃねぇかぁ!」


 私はそんなことを呟きつつ腕を動かす。いや、待て。一瞬俺は自分のことを私って言った気がする。不味いぞ。完全に俺は俺じゃなくなっている。このままじゃまるで女の子の様な感じになってしまう。


 いやだ。いやだ。俺はぐしゃぐしゃになりそうな感情を押し殺しつつ強がろうとする。けれども、瞳から流れ落ちる涙を止めることが出来なかった。あぁ、俺はこれから女の子の様にお人形遊びをして生きていくのか。それが俺の運命なのか。


「神様って奴よぉ……もしいんだったら教えてくれよ……私はこれからどうなるんですか……?」


 私は足を止め、息を整えながらか細い声で呟いた。

 その返答は帰って来る事が無かった。


「ハハッ……ハハハッ……そうですか」


 私は持ってきたスマホの電源を切る。もう電話しても意味がない。

 私は今迄の人生を捨てなければならない。きっとこれは今迄人を殺めてきた天罰なのだろう。私はそんなことをふと思った。


「……取り合えず、面白いことでも考えておくか」


 私は昔本屋で読んだ本の内容や食べてきた料理の味や、皆で旅行した記憶などを思い出しながら真夜中の道を歩く。ただ、小さい子供が闊歩する音だけが真夜中の街に響き渡る。


 AMIがどこに行ったかは誰も知らない。

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