言い訳しろメロス

ゴローさん

言い訳しろメロス(前編)

 メロスは激怒した。


 だから、王に短剣一つで突撃した。捕まった。


 でも、妹の結婚式の準備と出席のために自分の大事な友だちを人質にして、自分の故郷に帰った。


 そして王が待つ城に走って帰る時、濁流と山賊がメロスの前に立ちはだかった。


 それを突破することはできたが、そこで力尽きた。


 息を切らせながら、自分に言い聞かせる。

「真の勇者、メロスよ。今、ここで、疲れ切って、動けなくなるとは、なさけ、ない。セリヌンティウスは、俺を信じたばかりに、殺されなければ、ならないんだぞっ。」


「もう良くない?」

「っ」

 しかし、疲れていたせいか頭の中で悪魔が勇者に不似合いな言葉を投げかけてくる。


 いや、ここで諦めたらセリヌンティウスに向ける顔がないじゃないか!ふざけんじゃねぇ!



 そんな事を考えていたら自分の中の天使が現れる。

 そうだ!お前が言うことに従うんだ!


「いや、人の命を気にする前に自分の体を気にしな?あんた死ぬよ?あんた死んだら、あんたの中にいる天使の私の居場所なくなるから。あんたに死なれたら困るんだよね?」


 ガタガタッ!


 自分の中の大事なものが崩れた音がした。


 もう知ーらね。

 こっからは歩いていこ。

 もう今更何も変わらねーし!


 ゆっくりと伸びる。


 さっきまで見ていたはずの景色が一段と明るくなって見えた。


 ふと耳に、水の流れる音が聞えたが、関係ない。


 のんびり行くぞー!

          ◇◇◇

「太陽は…しずんだな。」


 太陽の最後の光が見えなくなったことを確認して、王は呟いた。


「あの男を処刑しますか?」

 王のそばにいた男が、王の機嫌を取るように話しかける。

 余談だが、今、王を不機嫌にさせることは死と同義だから、側近たちもピリついている。


 そんな側近の言葉を鼻で笑いつつ王は言う。


「そんな焦ることもないだろ?一番効果的なのはあの生意気な男の目の前で友を処刑することだろう?」


 王の残虐な笑みにそこにいたみんなが震えた。


         ◇◇◇


「しっかし遠いな。これじゃ一生懸命走ってたとしても間に合ったかどうか怪しいレベルだぞ?」

 あれからゆっくり歩いて城に向かって歩いているがまだまだ城がある住宅街の雰囲気は感じられない。

「さむっ!」

 俺はブルッと身震いする。

 太陽が沈む前は寒くなく、むしろ少し暖かいまであったのだが、夜になると冷え込んできた。


 でも、友達を待たせているんだ。こんなところで挫けたら俺のプライドが……



「あったけー」

 いや許すよ?というかこんなところで俺のプライドが…とか言っても、日が暮れる前に城に帰るという約束果たしてない時点で説得力ないし、そんな権利ないから。


 そんなわけで俺は近くにあったホテルに入って、今は大浴場に浸かっている。

『腹が減っては戦はできぬ』とはよく言うけど、要は精神的余裕がない中で王様を相手にするなんて無謀な話なのだ。


 昔の人もよく言ったものである。

 勝手に一人感心しながら俺は寝床についた。

         ◇◇◇

「今何時だ⁉」

「現在の時刻は4時半でございます。」

「遅いっ!もう次の太陽が登ろうとしているのにまだ現れないのか⁉」


 王は苛立ちを隠せない。


 というのも、王は城にメロスが殴り込んできた時に馬鹿なやつだと思いながらも、真っ直ぐなメロスに素直に憧れていたのだ。


「あいつは約束は守るやつだと思っておったのにな……見込み違いじゃったかな?」


 呟いた後、故に王は宣言する。


「次の太陽が登るまでに大罪人・メロスが来なかった場合、セリヌンティウスを処刑するのに加えて、メロスも処刑せよ!」

「「「はっ」」」

 自分に過度な期待を抱かせたメロスへの怒りを込めて唾を吐き捨てた。

         ◇◇◇

「ファーーっ。よく寝たー。」

 翌朝自然に目が冷めたメロスは布団の中で一伸びする。


 目をこすりながら時計を見ると、まだ5時にもなっていなかった。

 外はまだ薄暗い。


「早起きは三文の徳って言うもんなー。ちょっくら散歩にでも行きますか!」


 今は落ちぶれているが、一応メロスはほんの一日前までまともな人間だったのだ。

 昨日までの習慣に習い、さっさと布団から抜け出すと布団をたたみ寝間着のまま旅館の外に繰り出す。


 外の空気を大きく吸って、吐く。


 ゆっくり周りを見回すと昨日旅館に来たときには暗くて見えなかった周辺のものが見えるようになっていた。


 開店前でシャッターが閉まっている居酒屋や人があまりいない大通りなど、どこか寂しさを感じる街の様子が眼前に繰り広げられていた。


 ふとセリヌンティウスのことを考えると、胸に電流が流れたような激しい痛みに襲われた気がした。


 自分が昨日、途中で走るのをやめたことでセリヌンティウスはもうすでに処刑されたかもしれない。


 一体私の親友――否、元親友は最期の時、何を思ったのだろうか。


 ――あぁ――


 メロスは唇をきゅっと噛む。

 初めて人を裏切ったメロスは、嫌な感覚を忘れようと首を一度大きく振ると、改めて散歩するために無理矢理に一歩目を踏み出す。


 しかし、嫌なことは簡単に忘れられるものではなく、首を振って追い出したはずの積乱雲のような暗くどんよりとした気持ちが、もう一度胸いっぱいにせり上がってくる。

 それとともに自分のことを非難する冷静な声が聞こえてきた。


 ――お前はセリヌンティウスを殺したんだ。

「違うっ!あの邪智暴虐な王がいけないのだ!」


 一歩踏み出す。


 ――言い訳するな。お前が殺したようなものだろう?

「違うっ!」


 一歩。


 ――セリヌンティウスの気持ちを考えたらかわいそうだよなぁ

「うるさい!」


 一歩。


 ――私は軽蔑するよ。友を裏切った挙げ句殺した大罪人メロスよ。


「違うんだぁー!」 


「何が違うんだ?」

「え?」


 必死に自分を非難する声に反抗してくると目の前からどこかで聞き覚えはあるがどこで聞いたかわからない、しかし、背中がゾクッとする声が聞こえた。


 顔をあげるとそこには


 王がいた。

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言い訳しろメロス ゴローさん @unberagorou

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