香夜先輩のアンラッキー・デット
鳥路
受かりましたよ!受かりましたよ深幸君!
借りたものはきちんと返しましょう
それは、あたりまえのことである前に、私に刻まれた呪い
「もしもし。深幸君ですか?貴方の香夜先輩ですよ〜」
『そうですね。で、俺の香夜先輩。何か御用ですか?』
「お、まさかノってくれるとは。予想外です」
うちの
ツンケンして、いつも悪態をついてくる口の悪い子ですが、性格が悪い子ではありません
こうしてふざけつつ付き合ってくれているのも、彼なりの優しさです
ぶっきらぼうで、どこまでも優しくて・・・素直じゃない
けれど、これでもまだ素直になった部類だったりする
『別に?事実でしょう?』
「それはそうですけど・・・人前で堂々と言うなんて、今学校でしょう?」
『今は家です。今日はサボりました。結果、いち早く聞きたかったので』
「・・・本当は怒るべきところなんでしょうね。これ」
『まあ、そうでしょうね。けど、俺は香夜先輩の合否を聞きたくて。どうだったんですか?』
「ちゃんと第一志望の国立大に合格しました。春から私、大学生です!」
『それはよかった。しかし・・・』
深幸君の声が低くなる
もちろん、彼が何を言いたいのはすぐに理解できた
『・・・これ、運の「借り」になっていたりしますかね?』
「なっているでしょうね・・・。それも膨大に」
『無事に帰ってこれそうですか?迎えに行きますが・・・』
「流石にそこまでしてもらう訳にはいきませんよ。一人で帰ってみせます!だから深幸君は待っていてくださいね!」
そういって電話を切り、私は大学の校門を堂々と出ていく
知っていますか?人間の運は皆、一律では無いのです
運がいい人もいれば、運が悪い人もたくさんいるでしょう
けれど、最終的に一人の人間が得る幸運と不幸の値は一緒になると言われています
私は、自分の運を操作できる特異体質を持っています
これはそんな私が引き起こした・・・とある運の貸借のお話
大学に合格するという「幸運」を借りた私・・・
前借りした幸運と、その幸運を得るまでに身に降りかかる予定だった不幸
それらの値が釣り合うように、私は借りた幸運と不幸のバランスが釣り合うまで半永久的に運が悪くなる
これが私の幸運返済
今日も変わらず、私の体質は最高の幸運を与えてくれると同時に
それを、不幸で取り戻そうと猛威を振るべしゃああああああああああああああああああ・・・
おやおや、早速一発目みたいですね
通り過ぎた車を見送りつつ、雨水で滴る制服を絞っていく
昨日は雨が酷かった
今日は快晴だけれども、まだまだ昨日の雨は残っている
「まあ、水たまりが跳ねる程度で済んでよかったです。さあ」
帰りましょう、と心に決めた瞬間
頭に凄く嫌な感覚を覚える
何度も味わった、生暖かい感触
空を見上げると、電線には大量のカラスが止まっていた
まさか・・・まさか
あれ、ですか?
比較的マシだけど、できれば遭遇したくないあれです”
「でも、できれば逆が良かったですねぇ・・・」
流れるようにくらった二回目の不幸
でもこれで「運」がついたとポジティブに行きましょう!
・・・頭についたのは、フンですけどね
ハンカチでそれを拭った後、私は
今日は平日なのに、なんか混んでますね・・・
まあ、同じように合否確認帰りの子もいるでしょうし・・・仕方ないですよね
構内は混んでいたけれど、目的の電車にはすんなり乗れました
それからしばらくして・・・無事に一園に到着することはできた
ただ・・・
「本来なら三十分で到着するというのに、四時間も電車に揺られていましたね。たった五駅先なのに・・・」
電車内では何もなかった
しかし、外で何もなかったわけではない
最初は受験に落ちて人生を終了させた人が出て
次は非常停止装置をなんでも無い時に起動させた上で、謎の女装中年オヤジが路線上に出没するという珍事に見舞われ
最後に私が乗っていた車両の真反対に位置する車両で強盗が出たらしいです
降りた先に警察が待っていて、そのまま保護。事情聴取を受けたのちに解放されました
様々な問題への対処で、気がつけばお昼すぎだったのに、月が見えていました
けれど、一園につけば後は怖いものなんてありません!
後は深幸君のお家にお邪魔するだけです
前はオートロックを開けてくれなかったので、住民が出た瞬間に滑り込んでいたのですが最近はきちんと開けてくれますからね
なんなら合鍵も貰っちゃってますからね!先輩、彼女ですから!
「あ、雨が降り始めましたね・・・」
今日の天気予報は、夕方から天気が崩れる・・・だったはず
けれど、当初の予定では夕方にはもう深幸君のお家だと思っていたので、傘を持ってきていません
「・・・距離もそこまでないですし、もう制服びしょびしょですし。このまま帰っちゃいましょうか」
急ぎ足で道を進み、深幸君の家へ続く最短ルートの一つである歩道橋を駆け上がる
そういえばここ、深幸君が「よく滑る人を見かけるから、走らないように」・・・と
「あ」
そういう忠告を思い出した瞬間、私は階段で思いっきり足を滑らせる
手すりを掴んで、落ちないようにしたかったけれど、その手は手すりを掴むことなく、そのまま虚空を切った
ああ、もうダメだ
近づく地面
現実を見ないよう目を閉じて、これから来る痛みに備える
頭を腕で庇えば、最悪腕の骨折だけで済むでしょうから
「いった・・・」
「・・・い、たくない?」
なにかに当たったのはわかったのですが、それはとてもじゃないけれどコンクリートではなくて
皮膚がじんじんするけれど、それは負傷のそれではなく衝撃を受けた直後らしい感覚
目を、ゆっくり開けると・・・そこには見慣れた黒髪
前髪に掛かる程度に髪を伸ばし、その隙間から青い目を覗かせる
「深幸君」
「全く、先輩はいつも俺を敷くよな・・・怪我は?」
「ないですよ。しかし、深幸君は家で・・・」
「あんたがいつまで待っても帰ってこないから、どこほっつき歩いているのか気になっただけですよ」
「もう、素直に心配だったと言えばいいじゃないですか」
「・・・言わなくても、わかってんだろ」
「ええ。わかっているから指摘しているんです」
深幸君の上からどいて、彼が起き上がれるように手を差し伸べる
そして彼は、その手をしっかり掴んでくれた
今でこそ、こう手を掴んでくれるけれど・・・昔はいつも振り払われていたっけ
私の手を借りて起き上がった彼は、そのまま私の手を引いて、近くに落ちている傘の元へ歩いていきます
見覚えがある傘です。あれは、深幸君が愛用している傘ですね・・・
「・・・あんたが落下した瞬間、血の気が失せました」
「傘を道端に投げ捨てて、私を受け止めてくれたんですか」
「・・・まあ、あんたは下敷きがあればどうにかなるみたいですからね?」
「何度も言いますが、深幸君を意図的に下敷きにしているわけではなくてですね」
「わかっていますよ。それで、今回の
「ええっと・・・はい。この落下で七つ目なので」
「運が良ければ釣り合いが取れている状態か・・・」
「そうですね」
「受験に合格した幸運ってどれぐらいのものなんでしょうね」
「さあ。どれだけのものかわかりませんし、釣り合いが取れたのか、それともまだ残っているかすらわかりません」
彼の代わりに傘を手に取り、それをきちんとした形で持つ
互いにべしゃべしゃの泥だらけ
とてもじゃないですが、もう必要ないような気さえするけれど
彼が「言い訳」をしながら、私の側に立つには・・・いい、小道具なのだ
「けれど今から深幸君が側にいて、私を守ってくれるでしょう?」
「・・・仕方ないですね」
「いつもありがとうございます」
「・・・どういたしまして」
「でも、本当にいいのですか?」
「なにが?」
「互いに体質というか、性質を理解した上でこうして一緒にいますが、深幸君にとって私の存在は不幸の権化なのでは?不利益しか、なかったりするのでは?最上の幸運に不幸を与えているのでは?」
「何いってんですか」
「・・・はて?私は至って普通の意見を」
「あんたがいるから、俺は幸運なんです。だから勝手にどこか行ったりしないでくださいね」
「・・・はい!」
二人で傘の中に入って帰路を歩いていく
途中で深幸君が傘を持ってくれました
手は繋げないので、腕に抱きついてみます
歩きにくいけれど、これはこれで悪くない
春の夜。波乱な帰路を歩いた私はやっと、穏やかな帰路を歩けるようです
「深幸君」
「はい」
「迎えに来てくれて、ありがとうございます」
「こちらこそ、ここまで無事に帰ってきてくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして!」
水に反射し、キラキラと煌く街中
もう少しで、彼の家に到着する
お風呂に入って、ご飯を食べて・・・落ち着いたら今日の出来事を話そう
道中の話を聞いたら、深幸君は頭を抱えそうだけど
想像する後の話に胸を弾ませながら、私達は家への道を歩いていった
香夜先輩のアンラッキー・デット 鳥路 @samemc
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