何もない僕らのラッキー7

肥前ロンズ

KAC20236アンラッキー7

「俺さ、七男だったから、『魔物』になるって言われていたんだよな」


 彼の言葉に、僕は「なにそれ」と尋ねる。


「こっちじゃそういう伝承があるんだよ。大体末っ子って、食い扶持が足りなくて口減らしされたりするから、そういう負い目みたいなものから来たんだろうけど」

 だから俺は売り出されたんだよなー、と彼は笑う。

 僕はなんてことないように、軽い口調で言った。

「七なんて、こっちじゃラッキーな数字なのに」

「まじで? 俺超幸運?」

 かもね、と僕は返す。


「僕の国だと、七の倍数って、死者の日でもあるんだよね」

 僕の言葉に、彼が耳を傾ける。

「初七日、三十五日、四十九日……それが終われば、残された家族は喪に服していた期間を終えるんだ」

 だからもう、向こうの世界にいる家族は、とっくに忌明けだろう。

 異世界に突然迷いこんだ僕。

 あちらの世界で、家族はいなくなった僕をどう思っているだろうか。

 

 そっか、と彼が言った。

 心配する家族がいない彼と、家族を置いてきた僕。

 世界は、ほんの少し寂しくできているけれど。


「少なくても、僕は君に出会えてよかったよ」

 僕の言葉に、キョトンとした顔をした後、彼は笑った。

「そうだよなー。こっちの世界に来た瞬間、魔猪に追いかけられてたもんな」

「あの時君に助けられなかったら、大変だったね……異世界についた途端永眠してたよ……」

 だけど、そういう意味だけじゃない。

 君と出会えてよかった。

 どんな世界であっても、君と出会えてよかった、と僕は思う。

 いつか、「誰かの利益になるような行為をしなければ、愛されるわけがない」とどこかで思っている君が、わかってくれる日が来るといい。


「じゃ、次はどこに行こうか」

「海とかいいんじゃない?」

 僕らは地図を開く。



 これは勇者として魔王を倒したあと、目的もなく彷徨って生きていた彼と。

 異世界に来たものの、特に使命も能力もない僕の、特になんもない旅の物語。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何もない僕らのラッキー7 肥前ロンズ @misora2222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ