小説の中の世界に転生して頑張ったら本物が戻ってきました
牧村 美波
第1話
ここは高野ナナが生前に読んでいた恋愛小説の世界である。彼女が生まれ変わったのは、どこまでいってもアンラッキーな7番目の皇女レティシアだった。
しかし、自業自得な所も多く、原作のような妬み嫉みで腹違いの妹をイジメ抜いたり、その母親を暗殺しないなどせずに、なんやかんやで努力を重ねて死刑ルートを無事に回避して、本来ならヒロインで妹の夫になるシモン公爵と婚約することにまでなったのである。
まさにハッピーエンド。
めでたしめでたしと思いきや。
ある日の朝、目を覚ますとナナは目を疑った。目の前に本物が現れたからだ。
「体をあなたに譲った日に、わたくしがなんて言ったか覚えてらして?」
「兄である皇帝にそろそろ処刑されそうだから好きにしたらいいわ?」
「でも、死んでないわね。」
「死んでませんね。」
「ご苦労さま、行っていいわよ。」
「は?何ですって?」
寝ぼけながらベッドで話を聞いていたナナは飛び起きてレティシア皇女につめよる。
「わたくし、シモンの妻になることが夢でしたの。褒めて差し上げるわ。ほら、お金をあげるから出てお行き。」
そういってナナの手に握らせたのは金貨数枚だった。
「こ、こんな事で納得できません!」
ナナが金貨を返そうとすると金貨の入った巾着袋を投げつけてきた。
「図々しい女ね。これ持って出ていくのよ。」
「私に幽霊のままこの世界をさまよえと…あれっ?」
ナナは自分自身の体とレティシア皇女の体を交互に見くらべる。2人とも実態がある。
「鈍い子ね。わたくしがやっぱりレティシア皇女に戻りたいと神様に祈ったらあるべき姿に戻してくださったのよ。」
「そんな勝手な。」
「あたなも異邦人の姿のままでも生きられるんならよかったじゃない?神様からのせめてもの慈悲かしら?」
ナナは鏡に映る自分に懐かしさと違和感に言葉が出なかった。
「皇女様、シモン公爵様がお見えですが。」
ドア越しに侍女が呼びかけてきた。
今日は式の段取りについて話をする日だった。
「さぁ、分かったでしょ。侵入者に襲われそうになったとわたくしが叫ぶ前に、シッシッ。」
レティシアは虫を追い払うような仕草をナナに向けた。
こうして、追い出されたのだが皇居の近くで見知らぬ男たちに襲われかけたのを救ってくれたのは、なんと公爵邸へ帰宅する途中のシモン公爵だった。
どことなく知っている人に似ているという理由でそこから公爵邸でメイドとなり、侍女となりなんやかんやあってレティシア皇女の妹の話し相手となるうちにやがて周りから「本物のレティシア皇女なのでは?」と疑われ始める。
自分の人生を取り戻したレティシア皇女が、本来の通りに妹をいじめ、その母を暗殺しようとしていて、ナナの機転でなんやかんや阻止してる姿がここ数年のレティシアを思わせたのである。
「わたくしには何も申し上げることはできないのです。」と、誰に言われてもナナは言葉をにごしている。
実際、レティシア皇女でいたのは7年くらいだから私が本物ですとも言えなかった。
しかし、シモン公爵が独自に調べた結果、レティシア皇女の寝室から寝巻きのまま追い出された女性がいたことと、そのすぐ後に彼女を殺すようにレティシア皇女が兵士に指示を出していたことが発覚する。
また、その日からレティシア皇女の振る舞いが変わったとの証言もある。
「あなたが何者でももうかまわない。私の妻になってもらえないだろうか?」
レティシア皇女と婚約破棄したシモン公爵は、ナナにプロポーズした。
彼は解けない魔法で別人になったのだと勝手に納得したらしい。
なんなら今の見た目のほうがタイプだったりもするようだ。
本物のレティシア皇女はアンラッキーな7番目から結局抜け出せなかったのだなと思いながら、ナナはシモンに「喜んで!」と返事をした。
これでようやく、本当にめでたしめでたしなのでした。
小説の中の世界に転生して頑張ったら本物が戻ってきました 牧村 美波 @mnm_373
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