幸せって、なんだっけ (KAC20236 アンラッキーセブン)

ninjin

アンラッキーセブン

「麻衣子ちゃん、綺麗だったねぇ」


 みゆきの溜息交じりの言葉に、他の二人も虚ろな瞳のまま頷いた。

 もう随分アルコールが回っている。何せ結婚式の二次会後、地元の三人行きつけの小さなカフェバーでのことだ。


「二人とも、二次会で誰か良い人、居なかったの?」


 今度は奈菜が二人に問い掛けた。

 幸と杏は暗い顔をしたまま、首を横に振る。


「もういいじゃない、今夜は飲みましょう。明日は二人とも仕事お休みなんでしょ? ね、ねぇ」


 無理に作った笑顔の杏に、幸と奈菜は如何にも仕方なさそうな素振りで同意した。


「そうねぇ、家に帰ってもやること無いし、結婚式のこととか麻衣子ちゃんのこととか、親に根掘り葉掘り聞かれるのもしゃくだしねぇ・・・」


 と、幸。


「幸なんかまだマシよ。ウチなんかバカ弟に『姉ちゃんがご祝儀貰う側になるのはいつなんだろうね? いや、そんな日は果たして来るのかな?』って揶揄からかわれてムカつくんだから、いっつもいっつも」


 そう言った奈菜に、更に杏が被せる。


「良いじゃない二人とも、家族と一緒で。あたしなんか部屋に帰っても一人きり。こんなことならひとり暮らしなんて始めるんじゃなかったわ。掃除洗濯、面倒臭いし、彼氏も居なくて寂しいし・・・」


 ふふふ


 ふふっ


 あははは


 三人お互いに顔を見合わせて、今度は諦めと、どこか吹っ切れた感のある笑いが誰からともなく漏れ出すと、声を揃えて、カウンターの向こうのTomyさんに向けて声を上げた。


「「「マスター、生ビール、お替り!」」」

「はいよ」


 程なくして、キンキンに冷えたビアジョッキ3つを片手に、そしてもう片方の手にはフルーツの盛り合わせを持ったマスターのTomyさんが、三人のテーブルにやって来た。


「はい、生ビール3つ。それから、フルーツ盛り合わせ。今日は特別に初物の桃が入ってるよ。果物、嫌いじゃないよね?」


 そう言ってTomyさんは、テーブルにジョッキとフルーツの皿を置いた。


「え? フルーツは頼んでないですよ」


 杏が訝し気にTomyさんに問い返す。


「ああ、良いんだ。これは僕からのサービス。いつもご贔屓にして貰ってるからね、気にしないで。それに、もう今夜はこんな時間だから、お客さんも入りそうにないし、今日既に仕込みでカットしちゃった分は明日まで持たないしね」

「「「ありがとうございます!」」」


 ニッコリ微笑んだTomyさんは「気にせず、ごゆっくり」と軽く会釈をして、そのまま元居たカウンターへと戻って行った。

    ◇


 Tomyさんは、カウンターに戻る前に、店の壁掛け時計に目を遣り、時計の針が十一時時を回っていることを確認すると、そっと入口の扉を開き、OPENボードをCLOSEに裏返した。


 カウンター内のシンクでグラスを洗いながら、Tomyさんは三人を遠目に眺め、彼女たちの名前を呟くように口にするのだった。


「杏ちゃん、幸ちゃん、奈菜ちゃん・・・かぁ・・・」


 テーブルからは次第に楽しそうな笑い声が聞こえてくる。



 杏29歳、幸29歳、奈菜28歳(再来月29歳)・・・


 あん(アン)、しあわせ(ラッキー)、なな(セブン)・・・


 アンラッキーセブン・シスターズ。


 彼女たちに幸せが訪れるのは、果たしていつのことになるのか・・・



         おしまい

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